2017年12月31日日曜日

仁左衛門の早野勘平で2017年の歌舞伎見納め_歌舞伎座『吉例顔見世大歌舞伎』

11月の「ワンピース」昼公演終了後、ソッコーで向かった先、それは木挽町の歌舞伎座です。


吉例顔見世大歌舞伎
  平成29年11月1日(水)~25日(土)

【夜の部】
一、仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)
  五段目  山崎街道鉄砲渡しの場
       同   二つ玉の場
  六段目  与市兵衛内勘平腹切の場

早野勘平  仁左衛門
女房おかる 孝太郎
斧定九郎  染五郎
千崎弥五郎 彦三郎
判人源六  松之助
母おかや  吉弥
不破数右衛門 彌十郎
一文字屋お才 秀太郎

恋飛脚大和往来
二、新口村(にのくちむら)

亀屋忠兵衛 藤十郎
傾城梅川  扇雀
孫右衛門  歌六

真山青果 作 真山美保 演出
元禄忠臣蔵
三、大石最後の一日(おおいしさいごのいちにち)

大石内蔵助   幸四郎
磯貝十郎左衛門 染五郎
おみの     児太郎
細川内記    金太郎
吉田忠左衛門  錦吾
赤埴源蔵    桂三
片岡源五右衛門 由次郎
久永内記    友右衛門
堀内伝右衛門  彌十郎
荒木十左衛門  仁左衛門

仁左衛門が勘平をする…となれば、見逃したくはないですよね。というわけで、幕見では満足できず花道脇をゲットしておりました。へへへ。

10月に国立劇場の売店で、十三世仁左衛門の芸談集『国立劇場・歌舞伎の型1 仮名手本忠臣蔵』を買ったので、五段目・六段目のところを予習していきました。

例えば、五段目は、「二つ玉」というのは二つ分の弾薬を詰めた強薬という意味で、花道に出て来たからもう一発撃つのとは違うとか、勘平が定九郎から財布を取る段取りの違いとか、仲蔵型定九郎(この度は染五郎が好演!)の衣装が黒羽二重の場合と黒縮緬の場合があるとか、いろいろあるらしいのです。囃子方にも、上方と東京では使い方が違うところがいろいろあって、興味深い対談でした。
片岡家は、東京と大阪と両方で活躍したお家なので、十三世は両方の良いところをミックスして独自の型を作ったみたいです。五段目の型は五代目の菊五郎さんが作ったものらしいのですが、「大阪型ではこうだけど、どっちがいい悪いというより、論の余地なく東京の型がいい」とかいう話を読むと、必ずしも上方の型の伝承だけにこだわっている分けでなく、演技本位で良い表現を求めているんだということが感じられました。

当代仁左衛門さんの型は、浅黄の紋付きを着たりするので音羽屋さんの型と思われがちとのことですが、実はだいぶ違っていて、基本は父・十三世仁左衛門の型に自分で解釈を加え、さらに音羽屋さん、十五代目(市村羽左衛門←美貌で知られた二枚目役者)の上方の型も踏襲しているとのことでした。→「ようこそ歌舞伎へ 仮名手本忠臣蔵 5段目・6段目」
筋書きを読んだら、「自分の型は十五代目の型です」って書いてありましたが、掲載できる文字数の関係でか、文脈をだいぶ削られているんでしょうね。

とはいえ、予習した割には、虫六の節穴の目には、上方と東京の型の違いとか意識してみるまでには利きませんでした(爆)定九郎の着物の生地の違いさえ、目を皿にして、双眼鏡で覗いてみたけれど、…わかりませんでした。_ノフ○ 
やっぱりねぇ、もっと沢山いろいろな役者の演技を見る経験、お芝居以外の教養があれば、もっともっと深い理解ができるし、面白さも倍増する世界なんだと、またまた思い知らされもしましたが…。

だから、満足出来ないかというと、そんなことは全くないのが歌舞伎の面白いところです。

もうね、ただ仁左衛門勘平の美しさみずみずしさに参った上に、また、その堪える姿が痛々しくて、演技に飲み込まれて息するのも忘れてました。(*´Д`*) 

仁左衛門さんは肚で芝居を持って行く役者さんなので、(もしかして舅殿を殺してしまったのか…)からの息を詰めた演技が凄まじく、飲み込まれてしまいました。

六段目、吉弥さんの姑・おかやも良かったっていうとなんだけど、救えるところがなくて憐れでした。内側に向かっていく疑念と疑念、勘平・おかやの不条理と責めのループ。そして勘平が深くはまっていく情けなさと絶望。そして、切腹…。

それにしても、六段目って本当にブラッシュアップされたお芝居なんだなと、つくづく感嘆しました。「色に耽ったばっかりに…」で、腹を刺した自分の血糊がついた手で自嘲的にほっぺたを叩く(つまり、白塗りの顔に赤い血糊をつける)場面、いったいいつのどの役者が考えたのでしょう。天才です。
元の文楽人形では表現しえない演技と思うので、歌舞伎役者がつけたのだと想像するのですが、筋書きにも、ちょっと見た範囲の資料にもなくて、突き止めたい欲求に駆られました。(これは、来年の宿題になってしまったのですが、知っている方にお聞きしたいところです)

「大石最後の一日」も、幸四郎・内蔵助が金太郞・細川内記に「人はただ初一念を忘れるな」と話す場面が印象にのこりました。年があければ、高麗屋の襲名公演が始まります。幸四郎さんはこういう役はとても良いですね。最終の新幹線にぎりぎりだったので、最後の幕は扉近くに移動して後ろから仁左衛門さんの荒木十左衛門を拝見。慌ただしく劇場をさりました。

****

気がつけば、今年は仁左衛門さんの舞台を沢山観ることができて、眼福な1年でした。歌舞伎の神様に感謝。


【メモ】2017年の観劇ベスト10(◆は仁左衛門さん出演)

盟三五大切」◆(7月大阪松竹座)←ダントツ!
お祭り」◆「身替座禅」◆(4月金丸座)
桜の森の満開の下」(8月歌舞伎座)
仮名手本忠臣蔵 五段目・六段目」◆(11月歌舞伎座)
スーパー歌舞伎Ⅱ ワンピース」(10月・11月新橋演舞場)
霊験亀山鉾 ー亀山の仇討ー」◆(10月国立劇場)
「黒塚」(2月新橋演舞場)
名君行状記」「義経千本桜 渡海屋・大物浦」◆(3月歌舞伎座)
伊勢音頭恋寝刃」(4月歌舞伎座)
マハーバーラタ戦記」(10月歌舞伎座)

(番外)
門出二人桃太郎」(2月歌舞伎座)
長編ドキュメンタリー映画「歌舞伎役者 片岡仁左衛門」◆(5月仙台・緑水庵)



2017年12月29日金曜日

スーパー歌舞伎Ⅱ『ワンピース』_波乱と感動の航海

いろいろ忙しくて、ゆっくりブログを書いている暇がない(ホントに無い!)日々ですが、今年のうちにこれだけは書き留めておきたいという思いで記す日記。その1。

というわけで、スーパー歌舞伎Ⅱ『ワンピース』のことを書いておこうと思うのです。


平成27年の『ワンピース』初演は新橋演舞場で拝見して、これはもう衝撃で、その時も歌舞伎史の事件だと思っておりました。そのあと、シネマ歌舞伎にもなり、それを見た虫六子も夢中になり、「再演したら絶対見たい!」とせがまれて、「よし!なんとしてもチケットゲットしような!!」と2倍増しで気合いを入れて、今年の10月からの再演を待ちかねておりました。
そして万難排して10月の公演を2枚ゲットし、11月に仕事がありそうだったので休日くっつけて尾上右近さん主演によるマチネ「麦わらの挑戦」も見る気満々ですべての予定を整えておりました。

巳之助さんの魅力を見いだした初演、そのあと、猿之助はダブルキャストで巡業に付き合わせて、実力をつけたように、今度の公演では右近さんに大きなチャンスの機会を与えていました。それが「麦わらの挑戦」。

右近さんといえば、虫六の印象では、かの六代目菊五郎のDNAをいただきながら(*1)、音羽屋劇団の中ではまだ若いせいもあったけど、ちょい役の役回りで、お正月の劇場中継でも楽屋で他の御曹司にいじられていて、親が役者じゃないとなかなか大変なのかなぁ…などと思っていたら、そのうち「研の会」という自主公演などにも挑戦しはじめ、これは見どころあるなと思っておりました。研究熱心なのもブログなどに溢れていましたしね。

(*1)六代目にはお嬢さんがおふたりいて、長女の久枝さんは十七代目中村勘三郎の妻となり、十八代目中村勘三郎の母となり、次女・多喜子さんは六代目清元延壽太夫の妻となり、当代の清元延寿太夫を生みました。その次男は二代目尾上右近さんにあたるわけです。個人的には、延寿太夫さんと七之助さんって似てるから六代目のルックスなのかな?とか思ってましたが。

猿之助(ヨダイメ)はさすがに慧眼あるなぁと、その抜擢にも舌を巻いていたのですが…、それが開演まもなくとんでもない大事故がおきて、猿之助がまさかの休演となり、奇しくも猿之助が準備していたマチネ公演の体制で2ヶ月という展開になってしまいました。傷みや不安や忸怩たる思いの中で、代役での航海をさせることを即決し、船を降りた猿之助。本当にすごい。

そんなわけで、まずは虫六子と見に行った10月の公演。すでに25日になっていたので、やっと来れた!って感じでした。



幕開きのナレーションで、もう涙腺崩壊。役者がひとりも出てないのに、なんで泣きたくなってしまうんだ…と思ったけど、すみません、役者1人でてました。ナレーションは勘九郎さんでした。
でもこのナレーションがかかっている時に幕に投影された言葉が、猿之助のメッセージそのものに響いてくる。「悔いのないように生きる」。それは歌舞伎の未来に対して、考えられることを全部ぶつけてみるぞって言っているようで、その姿として「ワンピース」という作品があるって言われているようで、結果的に怪我のリスクがあったかもしれなかったけど後悔なんかないって言われているようで、胸の底まで届きました。どこかにあの全文のせてくれないかな。

それにしても、猿之助の不在を任された若手(右近、巳之助、隼人、新吾)の熱演は凄まじいものでした。立ちまわりや本水のシーン、初演の時を上回る気迫。
ナミちゃんとサンダー・ソニアの役は春猿さんがやって適役だったけど、新派に移られたので、あの役どうなるんだ?と思っていました。でも、新吾さんのナミもサンダー・ソニアもビューティフルで最高でした。

浅野和之さんの達者な演技も健在でやっぱり好きだわ〜と思ったし、初めて見る平岳大エースも格好良かったね。私は福士エース贔屓でしたが、平エースも、はいステキです。

もちろん若手だけじゃないよ、この船に乗っていた役者全員が凄いエネルギーを放出していたし、たぶん、表に見えていない裏方の皆さんも一丸になっていたと思うし、なにより、会場の雰囲気が違ってた。やっぱり凄い芝居に遭遇してしまったんだなと、身震いがする体験でした。

商売に乗せられている感が否めないけど、やっぱりノリを満喫しなくっちゃと、ファーファータイム用にタンバリンをひとり1個づつ購入。右近ルフィー宙乗りで、「TETOTE」がはじまり、来ましたー!で、2階席も総立ち縦ノリ。出演者のみなさんが2階・3階にも姿を見せてタンバリン交換してました。すでにリピーターの人たちがメッセージ付きで準備していたりして、上級者がいるものです。(総数10回くらい見にいった方もいるらしいよ。そこまで惹きつけるとはやっぱり凄い芝居だよね。)

最後は、teamワンピースが全員で奈落に下がるエンディング、なんだか、じんとしました。



新星や彗星やキラキラしてるお芝居が満天で、胸がいっぱいになったけど、やっぱり四代目は太陽なんだなと。これが来年でも再来年でも私は待ちますけど、猿之助が真ん中にいるこの芝居が絶対に観たいと、心が何度も立ち上がって、また胸がいっぱいになりました。

猿之助さん、元通りの身体になって舞台に帰ってこられること、心よりお祈り申し上げます。

平成29年10月6日(金)~11月25日(土)
尾田栄一郎 原作 横内謙介 脚本・演出
市川猿之助 演出 市川猿翁 スーパーバイザー
スーパー歌舞伎II(セカンド)ワンピース

ルフィ/ハンコック        尾上 右近 ※ 
白ひげ              市川 右團次
ゾロ/ボン・クレー/スクアード  坂東 巳之助
サンジ/イナズマ/マルコ     中村 隼人 ※
ナミ/サンダーソニア/サディちゃん  坂東 新悟 ※
アバロ・ピサロ          市川 寿猿
チョッパー            市川 右近 *
はっちゃん/戦桃丸        市川 弘太郎
ベラドンナ            坂東 竹三郎
ニョン婆             市川 笑三郎
ジンベエ/黒ひげ         市川 猿弥 
ニコ・ロビン/マリーゴールド   市川 笑也 
マゼラン             市川 男女蔵
つる               市川 門之助

エース/シャンクス        平 岳大 
ブルック/赤犬サカズキ      嘉島 典俊 
イワンコフ/センゴク       浅野 和之 

※市川猿之助休演につき、代役にて上演。


終演後、この日2回目観劇のあややちゃんと合流して銀座シックスの大食堂で、3人でいろいろ反芻しながらご飯を食べて帰りました。芝居があがったあとの食事はいつもさまようことが多いけど、遅い時間でもやっててここは便利だわ。



実は、新橋演舞場に行く前にも銀座シックスの蔦谷書店で時間を潰したのですが、この店舗はアートに特化した品揃えで、虫六的にストライクでした。伝統芸能系の書籍もたくさんありました。高額なのできっと図書館も入れてくれないであろう篠山紀信先生が7月に出された写真集『KABUKI by KISHIN』が何げにおいてあり、全ページ拝見。さすがに見応えありました。最後のページは18代勘三郎さんの写真で、写真家の思いが伝わってきてグッと息が詰りましたよ。これを見ただけで銀座にきた甲斐があったなーと、実はお芝居見る前に満腹になり、劇場へ足を運んだのでした。

そして、11月。
本来、「麦わらの挑戦」であった回で、出張帰りにスーツのまま足を運んだのですが。
右近さんをはじめ、全体にとても余裕があって安心してみることができ、成長しているんだなぁと思いました。抜かりなくカバンの奥にタンバリンを隠し持っていたので、段取りどおり二幕目で取り出してファーファー縦ノリしたら、なんだかとても発散しました。

ちなみにこの日のナレーションは七之助さんの声でした。(たぶん)

後半なので筋書きに写真入りましたか?って聞いたら、「結局、今回は写真は入れないことになったんです」とのこと。それで、前回まだなかった四代目のルフィとハンコックの写真を購入。実はこの日、このあと歌舞伎座で仁左衛門さんの勘平もみたのですが、両方で生写真を買ってしまったのでお小遣い使いきってしまいました。