2016年10月11日火曜日

文楽平成28年地方公演_「妹背山婦女庭訓」「近頃河原の達引」

毎年恒例の文楽地方公演がやってきました。
今年は公演日が月曜日だったので、個人的には休みをとらずして昼夜公演を遠慮なく拝見できて嬉し。

はいはい、入り口ではいつものお人形さんがお出迎え。みなさん、ごいっしょに写真を撮ろうと順番待ちでしたが、自分は入らなくていいのよ〜と脇からカメラを構えらたら、こちらに視線をくださいました。ありがとう蓑紫郎さん。若手がんばれ!

というわけで、今年の演目は …

【昼の部】
妹背山婦女庭訓
  杉酒屋の段
        豊竹 呂勢大夫
        鶴澤 清介
  道行恋苧環
    お三輪 豊竹 呂勢大夫
    求馬  竹本 文字久太夫
    橘姫  豊竹 芳穂太夫
        鶴澤 清治
        鶴澤 清志郞
        鶴澤 寛太郎
        鶴澤 清公
  姫戻りの段
        豊竹 芳穂太夫
        竹澤 團吾
  金殿の段
        豊竹 英太夫
        竹澤 團七
    
  (人形)
    橘姫       吉田 勘彌
    求馬 実は 藤原淡海 豊松 清十郞
    お三輪      桐竹 勘十郎
    ほか

【夜の部】
「近頃河原の達引」
  四条河原の段
        竹本 文字久太夫
        鶴澤 清志郞
   (人形)
     横淵官左衛門 吉田 幸助
     仲買勘蔵   吉田 文哉
     井筒屋伝兵衛 豊松 清十郞
     廻しの久八  吉田 一輔

  堀川猿廻しの段
        竹本 津駒太夫
        鶴澤 藤蔵
      ツレ 鶴澤 寛太郎 
   (人形)
     稽古娘おつる 桐竹 勘次郎
     与次郎の母  吉田 蓑一郎
     猿廻し与次郎 桐竹 勘十郎
     娘おしゅん  吉田 勘彌
     井筒屋伝兵衛 豊松 清十郞
     ほか

『妹背山婦女庭訓』は、たしか去年の国立劇場9月の演目で掛かっていたと記憶していて、見たくても見られなかったので、去年から楽しみにしていました。でも、通しではなく「杉酒屋の段」から「金殿の段」まで…。地方公演なのでやむなしかも知れませんですけども。
でも、初っぱなから呂勢大夫さんと清介師匠の「杉酒屋」ですよー。上がります。清治師匠率いる「道行恋の苧環」は、緊張感ある4挺三味線、あり得ないくらい揃ってたな、格好良かった。清治師匠のご出演は最近こういう合奏しか聞けてないような気がしますが、それでも地方まわりにも必ず来てくださって、本当に嬉しい。これだから昼の部外せないんですよね。太夫も、呂勢・文字久・芳穂と若手の実力派が勢揃い。それぞれ個性が違っていて面白いですね。芳穂太夫の美声が冴えていました。大注目です。

面白かったのは『近頃河原の達引』。猿まわしが主人公の物語りなので、ずっと気になってたのですが、やっと拝見することができました。

目の見えない母親をいたわりながら、猿まわしで暮らしをたてている与次郎。昔の芸人の暮らしぶりが垣間見えて興味深かったけれど、本当に貧乏だったなー(涙)。
仕事から帰って、梅干し一つで残してきたおむすびをササッと平らげてお腹を満たしていたり、廓勤めから戻って来た妹(おしゅん)のために自分の来ていた着物を掛けて床を作ってやって、自分は寒そうに煎餅布団にくるまって…、与次郎さんどこまでもいい人だ(涙)。
投げ銭を数える場面では、砂利やゴミなんかもいっしょに袋に入っているのをゴザに広げて、お金だけ拾って数えて、ゴミはほかしてた。猿は、家の中に飼育檻があって、壁の下の方に猿用の入口をこしらえてました。中で仔猿が待ってたよ。へぇえ、細かなところまで様子が伝えられるものですね。

恋人の伝兵衛がトラブルで人を殺めてしまったというので、おしゅんを道連れに心中でもしかねないと、はらはら心配。「ついて行かない」と約束させて退き状を書かせるけれど、哀しいかな与次郎は字が読めないし、母は目が見えない。おしゅんの気持ちは「伝兵衛と死ぬ覚悟」と決まっていて、書いた手紙は母兄への遺言状。案の定伝兵衛がやってきて二人のやり取りを聞いていた母兄はおしゅんの気持ちを察して、二人が一緒に出て行くことを許し、はなむけの猿まわしを見せて見送る。
悪い人いないけど、切ない話。

お名前でませんが、お猿の芸をさせる人形遣いさん、いい仕事してました。

で、分かってしまった。これは三味線弾きに聞かせどころ満載の名作だったのだ!
最初に、盲目のお母さんとお稽古にきているお嬢ちゃんが『鳥辺山』(!←心中はこの時点で暗示されてました)を弾く場面も、陰三味線も含め、よく人形の振りに合うもんだと感心しましたが、最後にたっぷり用意されていた三味線のみの聞かせどころ…。堪能しました。すごいわ、藤蔵師匠。汗ぐっしょりの大熱演、段の途中で糸を張り替えるの2回も見てしまったよ〜。堀川猿廻しの段、凄い!
そういえば、昼の部でも夜の部でも、開場のときに藤蔵師匠がロビーに姿を現してお客さんの様子を見ていました。こんな演奏の序章だったとは…お疲れさまでした。

それにしても、今回の地方巡業はお三味線方はいいとして、太夫方も人形方も主要な皆さんがあまりご出演になってないのが気になりました。柱を欠いているという印象で、その理由は分かりませんが、手元に一昨年のパンフレットがすぐ出て来たので比較して見ましたら…。

 これは平成26年の地方公演の出演者。

で、これが今年(平成28年)。
ややや、どうしたことだ…。
(こんな小姑みたいなことはしたくないんだけども、この力の削ぎ方は気になりませんか…)

先日、医学生理学賞に大隅良典・東京工業大栄誉教授が選ばれた時に、某理系の名誉教授の方々が3人ばかり立ち話をしているのに居合わせて、「ノーベル賞なんか2020年以降は全くとれなくなるから。いまの文科省のもとでは…」と言う話を聞いて、説得力あるなーと思ったのですが、それを思い出してしまいました。

2016年10月2日日曜日

9月に読んだ本

2016年9月の読書メーター
読んだ本の数:6冊
読んだページ数:1190ページ
ナイス数:32ナイス

おれは たーさん 1 (ビームコミックス)おれは たーさん 1 (ビームコミックス)感想
いつもの朝倉世界一節っちゃーそうなんですけど、このゆるゆる大好きだから新刊うれしい。ジャングルから(なぜか)豪華客船でクルージングしてきたターザンが、お客のテーブルクロス抜きした布を身体に巻いてジャンプ。つかみはOK。次の場面では都会生活に馴染んでぽっちゃりした「たーさん」になっちゃってました(笑)。孫悟空キャラクターの会社とか、お隣さんはゾンビ化エキスを開発する理系女のマドンナ・コダマちゃん(ゾンビ)。コダマちゃんの頭にのっけているベレー帽みたいな物体が脳みそに見えるのがいちばん気になるところです。
読了日:9月22日 著者:朝倉世界一

ふたがしら 7 (IKKI COMIX)ふたがしら 7 (IKKI COMIX)感想
完結巻。時代劇のオノ先生の描線はカリカリしてる。魅力的な登場人物で先が楽しみだったんですが、ハラハラするようなでっかい仕事ってあったっけ?というぼんやりした記憶で、最後はちょっと失速感が…。並びがしらはいつか別れるんだろうとはおもっていたけれど、弁蔵…そうなりましたか。最初から読み返してみないとかな?
読了日:9月22日 著者:オノナツメ


レディ&オールドマン 1 (ヤングジャンプコミックス)レディ&オールドマン 1 (ヤングジャンプコミックス)感想
Kinde版で読了。新しいシリーズの舞台は50年余前のロサンゼルス。100年も刑務所に入ってたというロブは不老不死のドラキュラか?いつにも増して謎に包まれた書き出しなのでした。主人公のシェリー嬢の金髪碧眼でチャーミングな表情に、オノ先生の絵の冴えを感じます。特に眼が良い。
読了日:9月15日 著者:オノ・ナツメ



花に染む 7 (クイーンズコミックス)花に染む 7 (クイーンズコミックス)感想
続刊中ですが、Kindle版に切り替え。本心が見えにくいのでまわりはいろいろ振り回されているのであるが、陽大はあんまりぶれていないのであろう…という気がした。今巻では。
読了日:9月10日 著者:くらもちふさこ






かわいい仏像 たのしい地獄絵かわいい仏像 たのしい地獄絵感想
「国宝・重文へのお勝手口からの挑戦状」という帯、妙味が効いている。京都を遠く離れた北国で大事に信仰されている素朴な仏像や、ちっとも怖くない地獄絵図。確かに教科書にでてくる美術品とは違うけど人々の心が入った造形だ。でもこれも美術だと言われると、ちょっと待って!かな。こういう造形ってむしろ「限界芸術」の領域にあるんじゃないかな。仏像や地獄絵というモチーフが隅々に浸透して技術拙くても作られるようになったってことで。編集も変わってる。こんなに自由に切り貼りしたり突っ込んだりができる緩さも、国宝では許されないすね。
読了日:9月5日 著者:須藤弘敏,矢島新

殴られた話殴られた話感想
古本屋で見つけて、詩人・平田俊子の小説!と、即買いしました。でも普段はこのテの本は読まないのでしばらく積んでおいたんですが、移動中の新幹線で読んだら一気読み。読みやすさとスピード感があってました。どろどろの不倫関係、どいつもこいつもダメダメな人たちなんだけど、当事者女性の一人称で綴られると情けないけど、どうにもならない心情が共振してきて痛い。友達の、隠している傷を偶然見てしまったようなヒリヒリ感。たぶん10年前なら無理だったかもしれないけれど、今は受け入れられるような気がします。人って成長するんだな。
読了日:9月3日 著者:平田俊子

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