2016年3月23日水曜日

シアター・コクーン「エターナル・チカマツ」

恒例の激務マンスリーに突入でブログを更新する余裕もないのに、見て来てしまいましたシアター・コクーンで上演中の「エターナル・チカマツ」を。


◆『ETERNAL CHIKAMATSU』-近松門左衛門「心中天網島」より-
シアター・コクーン
2016/3/10(木)~3/27(日)

作:  谷 賢一
演出: デヴィッド・ルヴォー
出演
   ハル 深津絵里
   小春 中村七之助
   おさん 伊藤 歩
中島 歩、入野自由、矢崎 広、澤村國久、山岡弘征、朝山知彦、宮 菜穂子、森川由樹、
中嶋しゅう、音尾琢真
最近、偶然かも知れませんが、近松ものの現代版やドラマやらが多いので、近松ってシェークスピアみたいな感じで捉えられているんだろうか…と思っていたら、D・ルヴォー氏がまるでそんなことを言っていたのでビックリしました。イギリス人は近松をどのように解釈するんでしょう。

『心中天網島』の“世界”に棲む小春と、いまの大阪で、死んだ夫が残した借金返済のため身を売って稼いでいる女(ハル)が蜆川(近松・心中ものの舞台として有名)の橋の上で出会い交わっていく物語。見せ場は前幕の小春心中の場面。七之助が迫力の演技力を魅せてくれますが、これが型としていっそう美しく舞台に映えておりました。えびぞりぃ〜。

七之助は可憐で健気ないい小春。男性の役者が相手ならなんの違和感もないところ、しかし、女性としても華奢で小柄な深津絵里が相手なので、なんちゅうかリアルに身体の性差が気になるということはありました。
小春が棲む虚なる物語世界(向こう側)とハルのいる現実世界(こちら側)との、パースペクティブが錯誤する感じはたぶん面白いはずなのですが、なんとなくちぐはぐに見えてしまう。どこかのピースが噛み合ってないのかな。
ハルが借金を完済するまでに何万何千回身を売らなければならないって計算する場面と、戯曲になってしまった小春の恋は、何百年も上演され続けて、その度に小春は治兵衛に殺される(実際に同じ場面が繰り返し演じられる)というのが重なって見えてくるのですが、小春とまるで瓜二つの境遇のはずなのに、二人が絡むとハルが纏っているはずの哀れ感はなんだか希釈されてしまうのでありました。
ハルがおさんと絡む後幕の方は、五左衛門に夫婦が引き裂かれる場面が省略されてしまったこともあり、さらに個人的には少しダレたかなという感想。
演出は能的な世界感を狙っていたのか、小春なんかは世話物歌舞伎のヒロイン(もとは文楽ですが)というより、蜆川の橋の上の行ったり来たりして成仏できない、中世的な幽玄なあの世の存在として映りました。それは、とても幻想的で美しかったけれど。

とはいえ、舞台の最後に(ここからネタばれ注意→)あっと驚く早変わりがあって、全ては現代劇の寸法に収められた!って感じで、全体的には脚本はよく練られていたと思います。
脇の俳優さん、狂言回しの中島しゅうさんや、イサオ/孫右衛門の音尾琢真さん、達者でした。
それから余談ですが、劇中歌で小春の歌が流れるのですが、女声なのに七之助の音感が良いのにびっくり。ポテンシャル高いわ—。

劇場グッズはいまいち食指が立たず、珍しく今回はスルーしました。


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