2017年4月10日月曜日

6年目の3月11日に仁左衛門の『渡海屋・大物浦』を見る_三月大歌舞伎昼の部

前日に大事な仕事があり、江戸入りしていた虫六。
その晩は虫六子のところに泊まって翌日帰りなので、歌舞伎座の幕見で昼の部を見て帰ろうかな…という話を、八王子の公園で紙芝居をやっているお友だちのAちゃんに話したら、「私も虫六さんと幕見に行きたいです!幕見行ったことないんで!」と乗ってきたので、朝、歌舞伎座の前で待ち合わせして幕見に並ぶことにしました。
3月11日のことでした。

仁左衛門の知盛の評判がとても良いみたいなので、土曜日は混むかも…と思い、Aちゃんを急いて、9時過ぎに待ち合わせしたら、私たち「3・4」番でした(いやー、すまんすまん)。でも、ゆっくりベンチに腰掛けて久しぶりにいろんな話ができました。
あの原発事故でAちゃんが富岡市の自宅に住めなくなり八王子に移住してきて、早6年目。地元公園や横浜市博物館で地道に街頭紙芝居の芽を育てています。

A「3月11日に歌舞伎座で虫六さんに会うってのもいいですね。」
虫「なんだかね、不思議だね…。ここから遠藤が見えるんだね。」
A「遠藤って最近勝ってるんですかね?」
虫「う〜ん、優勝戦線には出てこないねー」(補記:まさかの負傷を追った稀勢の里が記憶に残る優勝を果たした今場所の、遠藤関の成績は8勝7敗。がんばれ遠藤!…すみません脱線しました。)

とりとめの無い話で1時間半も時間を潰して、やっと4階席に入場。幕見、やっぱり遠いけど番号が早いから好きな席をゲッドできました。一応、花道の七三がみえます。本当は花道近くで見たかったけれど、なにしろ予定が立たない月に仕事ついでなので文句言えません。っていうか、あきらめていた舞台だったのでとても嬉しい。

歌舞伎座三月大歌舞伎

平成29年3月3日(金)~27日(月)
【昼の部】

真山青果 作/真山美保・今井豊茂 演出
一、明君行状記(めいくんぎょうじょうき)

池田光政 梅玉
青地善左衛門 亀三郎
妻ぬい 高麗蔵
弟大五郎 萬太郎
若党林助 橘太郎
木崎某 寿治郎
吉江某 松之助
筒井三之允 松江
磯村甚太夫 権十郎
山内権左衛門 團蔵


二、義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)「渡海屋」「大物浦」


渡海屋銀平実は新中納言知盛 仁左衛門
女房お柳実は典侍の局 時蔵
相模五郎 巳之助
銀平娘お安実は安徳帝 市川右近
入江丹蔵 猿弥
武蔵坊弁慶 彌十郎
源義経 梅玉


十世坂東三津五郎三回忌追善狂言
三、神楽諷雲井曲毬(かぐらうたくもいのきょくまり)「どんつく」

荷持どんつく 巳之助
親方鶴太夫 松緑
若旦那 海老蔵
太鼓打 亀寿
町娘 新悟
子守 尾上右近
太鼓持 秀調
太鼓持 彌十郎
田舎侍 團蔵
芸者 時蔵
白酒売 魁春
門礼者 彦三郎
大工 菊五郎

 「名君行状記」は、これまで脇にまわることが多かった亀三郎丈がいい役をもらって、しかも好演していました。梅玉さんがリラックスして演技しているのも対照的で、器のおっきなお殿様に若気感もりもりで楯突いて、自分の小ささに打ちに召される若僧の役。いい感じでした。亀三郎を発見した…と思ったら、今度襲名なんですねー。大きくなれ。しかし、いい人材を見抜いて、失敗があっても決して見捨てることなく育てるというのがリーダーに求められる器量なんだと、真山先生に教わりました。

 「渡海屋」「大物浦」っていろいろ見てますが、仁左衛門さんがやると別なお芝居に見える。銀平は、ぎろりと相模五郎らに一瞥をくれるだけで、こってりとした黒漆の照りのようなオーラが放出される。深い胸の奥に潜ませた計略。颯爽と白鎧に着替えて登場すると、なんという神々しさ。4階席にいながら、その気品に打ちのめされました。
 結局、義経勢に返り討ちにあって満身創痍で戻ってきた知盛に、義経の腕の中に保護された安徳帝の「朕を供奉し、永の介抱はそちが情。けふ又まろを助けしは義経が情なれば、仇に思うな知盛」のお言葉…およよ…。そのあとの仁左衛門の入水落ちッぷりが…。
何しろ4階からですと、高い崖の上に乗った知盛は見切りなんですよぉ〜!思わず自分の体を床側へ90度曲げて(端の席で良かった)仁左衛門さんのお顔を拝んだ虫六です。
(いまさらの贅沢でくどくて申しわけないですが、この芝居は花道脇で見たかったよぅ〜!)

…果たして、知盛は海原に碇とともに身を沈めたけれど、一族の怨みの魂は昇天していって…今日この演目を観ていることの不思議を感じた虫六でありました。

 思えば、6年前の大震災のあの日、真っ暗な避難所で虫六子と夜を明かし、3月14日のチケットがとれてそれはそれは楽しみにしてた『絵本合法衢』はもう無理か…と絶望も口にできなかったことや、それまでのいろいろな価値観や将来に対する見当がもろもろと手応えを失っていく感覚に襲われる中で、その年の6月に仁左衛門さんと孫の千之助君が「連獅子」を舞うというので(ちょっと無理して)上京し、その舞台を拝見して、これまで自分が好きで信じてきたものがまだちゃんとここにあるということを感じ、言葉にならない自信と勇気をいただいたことも蘇りました。

 それから、安徳帝の右近君が巧かったなぁ。動じてないし、セリフは明晰だし、可愛いし…やっぱり天才っていうんでしょうね。感心しました。成長が楽しみですね。

「どんつく」は、踊りが得意な巳之助君の本領発揮!やっぱり力をつけている。もっともっと活躍して欲しいです。
ところで、「どんつく」って、太神楽の粋な太夫と田舎者の荷物持ち「どんつく」とがメインキャストなわけですが、これって、萬歳でいう太夫と才蔵ですよね。虫六が拝見した日は鶴太夫役の松禄さんの大道芸(玉入れ)がなかなか成功しなくてハラハラしました。練習不足でしょうか…、千穐楽の頃には上手になったかな。あれ、ぴしっと決めないと太夫のカッコ良さが出ないからね (´(エ)`;)

今回の「渡海屋」「大物浦」、幕見でみた呪いで言うのではなく、とてもいい芝居だったことには間違いないので、シネマ歌舞伎にしてもらえると望外の喜びです。まだ何回でもみたいです。

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