2013年11月27日水曜日

『鞍馬山』

とりあえずパソコンが生き返りましたので、ちょっと棚上げにしておりました、次の課題曲の蘊蓄を調べてみました。

さて、『岸の柳』につきましては、宿題残しつつお浚い会は終えた虫六ですが、まだこのまま『岸の柳』を続けるか、次の曲にいくかと先生に提示されまして、「とりあえず、岸の柳はリベンジしますが、その次の曲は決めて欲しい」とお願いしまして、じゃーん、次は『鞍馬山』と決定しました。



しぇ〜!『鞍馬山』は、今回、兄弟子Kさんがお弾きになった曲で、な、な、なんと《大薩摩》が入る難曲であります。がんばるぞ〜。

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『鞍馬山』

安政三年 1856年
作曲 2代杵屋勝三郎

(本調子)
前弾
それ(合)月もくらま(鞍馬)の影うとく 木の葉おどしの小夜あらし 
(合)ものさわがしや貴ぶね(船)がは(川)(合)
天狗だふしの夥しく 魔かい(界)のちまたぞ恐ろしき
(合方)
ここに源家(ゲンケ)の正統(ショウトウ)たる牛若丸は 
父の仇(アダ) 平家を一太刀(ヒトタチ)恨みんと 
夜毎詣づる 多聞天 祈念のつか(疲)れ岩角に 
暫時(シバシ)まどろむ(合)肱まくら
(セリ上げの合方)
思ひ出せば 我いまだ三歳の時なりしが 母常磐が懐に抱へられ 
伏見の里にて宗清が(合)なさけによりて いのち助かり出家をせよと
當山(トウザン)の (合)東光坊へあづけられしを 数へて見れば一むかし
(合方)
十余年の星霜経れど おさなごころ(稚心)に忘れずして 
今 目(マ)のあたり(に)見たる夢 それにつけて
も父のあだ(仇)
(合方)
剣道修行なすといえども われ一向の生兵法(ナマビョウハフ)(合)
願へば神の恵(メグミ)にて 本望遂ぐる時節を待たん 
いでや琢磨の修行をなさん (合方)
木太刀(キダチ)おっ取り 身構(ミガマエ)なす(合)
時しも俄に 風起り 天狗つぶて(礫)のばらばらと 鳴動なして
凄(スサ)まじし(合)
遙かの杉のこずゑ(梢)より(合)又もや怪しの
小天狗
木太刀うち振り (合方) たちむか(立向)へば(合)
しや 小賢(コザカ)しやと牛若丸(合)
つけ入る木太刀を払ひ除け (合方)上段(合)下段 (合方)
早速のはたらき (合方)
勝負如何にと霧隠れ(合) 後に伺ふ 僧正坊(ソウジョウボウ)
優り劣らぬ(合)両人が(合)木太刀の音は反響(コダマ) 目ざましくも
(合)勇ましし (合方)
さしもの天狗もあしらひかね(合)跡を晦(クラ)まし 失せにけり
(合方)
跡を(合)晦(クラ)まし(合)失せにけり

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合方多し!これは、練習あるのみ…みたいな曲ですね。

浅川玉兎の『長唄名曲要説』によると、
「天狗を相手に剣道修行する牛若丸。短いがスッキリと気持ちの良い勇ましい曲、三味線は終いの方に弾き難い手がある。」と。

安政3年(1856年)11月市村座の顔見世公演で初演された「娼女誠長田忠孝(じょろうのまことをさだのちうかう)」の五立目のだんまりに使った大薩摩だそうです。常磐津の『宗清』の場面があり、常盤御前が向こうへ入ると舞台が変わって、鞍馬山の場となり、そこでこの大薩摩が始まって、稚児姿の牛若丸が肘枕で夢をみているポーズでセリ上がってくるという趣向だったそうです。前場面の宗清の情けで命を救われるくだりが牛若の夢オチという…、それで「だんまり」ということなんでしょうかね。夢から覚めて、暗やみの中で烏天狗との立ち回り…という展開なのか…。

河鍋暁斎「僧正坊 牛若丸」

どういうお芝居かというのは詳しく調べられませんでしたが、長田といえば、平氏に追われた源義朝が青墓の娼婦宿にいる愛人を頼って逃げていった先で、家来の長田の庄司忠致にだまし討ちにあって命を落とすというあの「長田」のことでしょうね。物語の舞台は義朝が殺されて頼朝兄弟の命乞い、源氏再興を誓って臥薪嘗胆…というところでしょうか。でも、「娼女誠…」というのは、義朝の妾の常盤御前が子どもを助けてもらうために清盛に操を犠牲にすることにテーマがあったのかもしれないです。なにしろ、常磐津の『宗清』は文政11年(1828年)に市村座で初演されているので28年もまえのヒット作のようなので。

牛若丸こと義経を演じたのは、18歳の河原崎権十郎。若き日の劇聖・九代目市川團十郎であります。烏天狗との立ち回りや、引き抜いて烏天狗→盗賊袈裟太郎(四代目小団次)や僧正坊→女盗賊お松(四代目菊五郎)という早変わりの趣向もあったとか。河竹黙阿弥の作という説もあるようですが、このお芝居、通しで観てみたいものです。

曲は「節づけがサラリとしていて割合に易しい」のだそうで、唄の方は初心者向けらしいのですが、三味線の方はお終いの方に「なかなか手のこんだ難しい所があるので、初歩の人には向きません」と!むむむ。

そうか、虫六もいよいよ中級に突入か(←ポジティブにやる気を奮い起こしている。)

まずは「大薩摩」を会得することが最大の課題でしょうね…。溌剌としなやかな牛若丸を表現できるでしょうか?!
(でも、少々苦手な色っぽい曲が続いていたので、この複雑な手をたくさん覚えられる課題曲はちょっと楽しみなのでした〜)


【今日の参考文献】
研精会譜『鞍馬山』(邦楽社 長唄新稽古本・吉住小十郎編)
浅川玉兎『長唄名曲要説』
『歌舞伎登場人物辞典』(白水社)
渡辺保『明治演劇史』(講談社)

2 件のコメント:

  1. かっこいいねえ〜牛若丸!
    がんばってねえ〜!(コメントに画像貼れないのでリンク)
    http://www.muian.com/muian04/04kyosai20006.jpg

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  2. >kurokitiさん

    ども!
    かっこいい〜!画像いただきました!

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