○平成中村座 陽春大歌舞伎
十八世中村勘三郎を偲んで
平成27年4月1日(水)~5月3日(日・祝) *虫六観劇日は26日
【夜の部】
一、妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん) 三笠山御殿
杉酒屋娘お三輪 中村 七之助
漁師鱶七実は金輪五郎今国 中村 獅 童
橘姫 中村 児太郎
豆腐買娘お柳 波野 七緒八
豆腐買おむら 中村 勘九郎
烏帽子折求女実は藤原淡海 中村 橋之助
二、高坏(たかつき)
次郎冠者 中村 勘九郎
高足売 中村 国 生
太郎冠者 中村 鶴 松
大名某 片岡 亀 蔵
三、極付 幡随長兵衛(ばんずいちょうべえ)「公平法問諍」
幡随院長兵衛 中村 橋之助
女房お時 中村 七之助
出尻清兵衛 中村 勘九郎
伊予守源頼義 坂東 新 悟
御台柏の前 中村 児太郎
子分極楽十三 中村 国 生
同 雷重五郎 中村 宗 生
同 閻魔大助 中村 宜 生
同 笠森団六 中村 鶴 松
近藤登之助 片岡 亀 蔵
唐犬権兵衛 中村 獅 童
水野十郎左衛門 坂東 彌十郎
こちらは松席からのパノラマ写真(虫六子撮影) |
このところ、実力も人気も備わってきたセブンこと七之助丈。この世代の女形役者の芯になって行くのは間違いないね。
その片鱗を虫六がもっとも強く感じた舞台が、まだ勘三郎さんが闘病中だった2012年9月の大阪松竹座の勘九郎襲名公演中の「妹背山婦女庭訓 三笠山御殿
」のお三輪でした。そんなわけで、勘九郎が座頭になっての新生・平成中村座で、七之助が掛けるお三輪、見逃せません。
今回、平成中村座の筋書きには「妹背山婦女庭訓」の「三笠山御殿」の前までのストーリーが七之助丈おすすめってことで漫画でくっついてます。「妹背山〜」が全5段12話で「三笠山御殿」は4段目11話なので、10話分を超高速漫画解説ってわけです。ごく大まかなあらすじですが、どうして町娘(そもそも古代史に登場する大化の改新が背景の時代になぜ商家の町娘なのか?ですけど…歌舞伎だからしょうがない)のお三輪が、御曹司に遊ばれて勘違いしているのを知らずに一途な恋心を募らせつつ、時の権力者の御殿にふらふらやってきたのか、…ってことが認識として共有されました。これがなかなか面白い漫画で、イケメンの藤原淡海をして「念のためにいいますが 淡海は 女の敵だけど 正義の方 です(笑)」と。これだー、これがこのお話の肝なのです。
田舎娘が官女にいじめられる場面や、淡海が橘姫と結婚するということで裏切られ(というか、遊ばれ)てたことを知り嫉妬で変化(疑着の相を顕わすという)するも脇腹をさされて、あいつは正義の見方だから死んで役に立ってやれと納得させられるところが、全然お目出度くないお話で、個人的にはこの物語自体は好きになれないのですが、七之助が演じるお三輪の儚さは良いです。
なんだかとても演技が安定してきて、舞台が揺るがない気がします。花道での変化の場面も、迫力あるんですよね。
道成寺ものの清姫や「摂州合邦辻」の玉手御前など恋心の強さから別のステージのものに変化したり呪をかけたりする話はありますが、お三輪は人臭さというか娘の一途さが残っているところがいいです。すべての登場人物の中でお三輪にだけ感情移入ができる、そういう話の作りになっているのでありますね。
そんなとてもいい場面なのに…。この日は、遅刻してきた着物姿の老夫婦が、その肝心の場面でお茶子さんに案内されてなんだか無神経におしゃべりながら乱入してきた。視界は邪魔されるわ、集中は途切れるわで最悪。うへぇ〜。お洒落する時間あったら間に合うように小屋に入って欲しいです。あの花道の袂にいたお客さんたちも、全員、うへぇ〜だったと思う。
申し訳ないけども、表方のスタッフさんも話の筋にあわせて邪魔にならないように遅刻客をオペレーションして欲しいと、心からお願いする虫六でした。頼むよ〜。
お客様のマナーという話ついでに、虫六子の前に座っていたご婦人も体がメトロノームのように動いて「後ろの人泣かせ」でした。家でテレビでも見ているかのような自由な体勢で体を動かすので、順繰りに後ろの人がみえなくなり、客席EXILE状態。これも程度問題、ご迷惑なことです。おみくじのアンラッキーがここで現れたか?虫六子(昨日のブログ参照)。こういう日のために体幹は鍛えておきたいものです。気をつけようっと。
ちょっと脱線してしまいましたが…、お三輪の衣装も秀逸だと思いました。
萌葱(黄色みがかった若草色)に石持の十六むさしの裾模様というのが、スタンダードなお三輪の衣装で、世話娘役の代表的な衣装でもあります。その内側には麻葉の段鹿子の襦袢、その内側に緋色の襦袢を着ています。
三笠山の花道の出の時は萌葱の衣装の片袖を脱いで手ぬぐいを被り、いかにも庶民臭い作りですが可愛い。しかし、ことが脇腹を刺される事態となると、鬢も振り乱し、段鹿子の襦袢も片袖脱いで緋色の襦袢が出てきます。血のりを使わずに血染めの状態を演出しているわけです。しかも美しく。
この幕のごちそうは豆腐買いの勘九郎と七緒八くん。初めての化粧(かお)を作っての舞台ってことで、会場がわきました。自分が舞台に出ると観客が大喜びする…そういう感性をこんな小さな時から身につけて歌舞伎役者は育てられていくのです。今日は、ちょっと眠そうでしたけど、ね(笑)。
「高杯」は松葉目もの…というか、狂言タップダンス。勘九郎丈はこういうの得意です!楽しい、楽しい。鶴松君が太郎冠者というのも注目。ここはブロードウェイか?!
長唄連中は、立唄が巳津也、三味線が巳太郎、お囃子は傳左衛門さんが出てました。この演目はやっぱりお囃子が肝心ですね。
さて、この幕が終わりましたら、急に虫六子が慌てて席を立ちました。「生写真、売ってるうちに買わなくちゃ!」戻って来たら、鶴松君の写真をゲットしてきたようでした。
「幡随長兵衛」はけっこうたっぷりで、初っぱな劇中劇で「暫」みたいな芝居を、いてうさんが役者の役でやるんですが、これが適役の旗本・水野の子分に邪魔されるくだりで、「勘弁してよ〜、せっかく名題昇進なんだからさー」っと持って行っての口上をやってくれ、中村屋のファンを喜ばせていました。うまいなー、中村屋!
いてうさんおめでとう!
この物語も、侠客の幡随長兵衛が漢の顔を立てるために、卑怯な旗本・水野の計略と知りながら殺されに行く…というお話で、なんだか不条理ものがつづくなー。橋之助さんは近頃恰幅がよくなっていて、このような役が似合ってきたのかな。子分役で成駒屋三兄弟も出て、親子共演でした。いつの間にかみんな大きくなりました。でも、息子達はもうちょっと演技力を付けるのが課題ですかね。
ここでも七之助は女房役ですが、こちらは侠客の姐さんってことで、怖いキャラクターではありませんが粋筋の色気があってよろし。
今年の平成中村座では、ちょっとしたお楽しみが企画されておりまして、小屋の随所に「目」が隠れております。
例えばこんな感じ。
…こんなのとか。
場内18箇所あるそうです。
お大尽席にも撮影禁止の桜席にもありました。
この目、もちろん18代目の目ですね。
役者も、スタッフも、お客も、みんなこの目に見守られてお芝居を楽しみ、平成中村座も無事に千穐楽をむかえることでしょう。
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