2015年8月30日日曜日

芸の真髄シリーズ第9回「女舞雪月花」で、「於鍋道成寺」に感服

東北で地方暮らしの虫六はお三味線をたしなんではおりますが、地元におりますと一流どころの演奏家の生演奏を聴くチャンスというものがほとんどありません。歌舞伎の地方公演に地方さんが付いていらっしゃればしめたもの!演目によっては長唄じゃなくて、清元とか竹本とかいろいろですし、国宝級の方がいらっしゃるというのも、ほぼ可能性がありません。そんなわけで、足を伸ばして東京まで聴きに行かないと触れるチャンスはないということになり、かつ、仕事の休みを使って…となると自然、上演期間に幅のある歌舞伎公演が中心ということになります。

で、いちど聴きに行ってみたいものだと思っていた演奏会に国立劇場の「芸の真髄シリーズ」がありました。今年は8月22日(土)との情報をキャッチして、(ん、これは夏休みの残りを使えば行けるんでね?)と一念発起、チケ取りに参戦してみたところ、なんと最前列の席がゲットできました。しかも地方さんポジションの真ん前。やったー!


芸の真髄シリーズ第9回「女舞雪月花」
平成27年8月22日
国立劇場大劇場

 "月"
一、長唄「島の千歳」  藤間 勢三

  唄:芳 村 伊四絽
  三味線:今 藤 珠 美
  小 鼓:望 月 晴 美
 
 "雪"
二、長唄「鷺 娘」   吾妻 徳穂

  唄:杵 屋 直 吉
  三味線:稀音家 祐 介
  囃 子:藤 舎 呂 船
  笛: 藤 舎 名 生
 
 "花" (道成寺三趣)
三、「豊後道成寺」  藤間 洋子

  浄瑠璃:清 元 美寿太夫
  三味線:清 元 榮三(人間国宝)
  筝:米 川 敏子

四、長唄「於鍋道成寺」尾上 菊見

  唄:今 藤 美 知
  三味線:今 藤 政太郎(人間国宝)
  囃 子:藤 舎 呂 船
  笛:藤 舎 名 生

五、長唄「傾城道成寺」花柳 寿美
         
  唄:杵 屋 東 成
  三味線:杵 屋 勝 禄
  囃 子:堅 田 喜三久(人間国宝)
  笛:中 川 善 雄

現在、日本で最高峰の女流舞踊家が一堂に介し、その芸を披露するという贅沢な番組。しかし、いちばん前で踊りの方は尻目がちに演奏家の手元ばかりを見ていた虫六はちょっと不遜な客だったかな。っていうか、もったいないですよね。
しかし、小鼓一調だけの「島の千歳」も珍しくカッコ良かったし、直吉・祐介の「鷺娘」も聴き応えありました。「鷺娘」の曲弾きで思わず拍手しそうになったのですが、舞踊の場合はこれやっちゃいけないのでしょうか、ぱらっとも来ないので、うっと思いまして手を動かさずに心で拍手…歌舞伎座だったらわーっと盛り上がったでしょうけど、ずいぶん雰囲気違うんですねー。そして、道明寺もの三趣では人間国宝三連打!珍しい清元バージョンの「豊後道明寺」東成・勝禄兄弟の「傾城道明寺」もたっぷり聞けました。

しかし、今回、こんな不遜な虫六の視線を舞台に釘付けにした踊りは、尾上菊見師匠の「於鍋道成寺」であります!

ちなみに「道明寺もの」というのは、安珍清姫伝説(恋慕う僧の安珍を追いかけて執念のあまり大蛇に化身した清姫が、安珍の隠れる道成寺の鐘に巻きついて焼き殺した)を題材にした歌舞伎舞踊で、元禄年間から上演されているそうです。集大成と言われ有名なのが『京鹿子娘道成寺』でこれは宝暦3年(1753年)中村座で初代中村富十郎が初演し人気演目となりました。いまも女形がここ一番でかける演目です。
後年、この「道明寺」をベースにして、目新しさや役者の芸風を生かしてさまざまな趣向を盛りこんだヴァリエーションが作られていくようになり、『奴道成寺』(立役が踊る)、『男女道成寺』(女方と立役二人で踊る)、『二人道成寺』(人気、実力の拮抗した女形が二人で踊る)などの、いまも人気の演目が生まれたそうです。(*参考・HP歌舞伎美人

そんな「道明寺もの」のちょっと珍しい3題をセレクトした乙な番組で、なかでも「於鍋道成寺」は珍しいと目を丸くしました。
 なんていうか、「道明寺」のパロディなんですよ。この最高峰の舞踊家が揃う舞台で!

 〽蕪のほかには小松菜ばかり 〵〳  暮れそめて鍋や煮立つらん
 〽鍋に恨みは数々ござる 初夜の鍋を煮るときは 諸行ひもじいと響くなり
  後夜の鍋を煮るときは 絶命絶食と響くなり

とか…。
白拍子の花子ではなく、佐渡から上京してきた奉公娘が台所仕事しながら、ちょっと仕事をさぼってみたり、故郷を思い出してみたりしながら、チャーミングに踊るのです。
本当にかわいい。そして随所に、あぁ、これ娘道成寺だ…と見覚えのある身体の動きや節回しが妙に利いているし、洒落も利いているしで、楽しいのなんの。で、最後は道明寺の大鐘じゃなくて、大鍋が落ちるという…。
ろくに踊りのことは知りませんが…これが日本文化の本領だ!と思いました。

この作品は、なんでもあの郡司正勝先生が、尾上菊見師匠のために作詞なされたという作品とのこと。芸歴60年という菊見師匠が大事にされ再演を重ねてきた作品で、今回「一世一代」の踊りおさめのおつもりだったそうです。もったいない。

菊見師匠以外では、十八代目・中村勘三郎丈が演じているそうです。中村屋の「於鍋道成寺」…それは面白かったに違いない!!(見たかったようぅ)
こうなると、やっぱり勘九郎か七之助が、芸を引き継いで、平成中村座(あるいは錦秋歌舞伎あたり)で踊ってくれないかなーと、妄想が膨らんじゃいますね。
この組み合わせは絶対に絶対に(2回言うけど)面白い(!!)と思います。

ちなみに会場の後方にはNHKの大型カメラが数台構えておりましたので、そのうちテレビで放送があると思います。興味を持たれた方は、どうぞご覧ください。


*おまけ
せっかく東京まできましたので、朝早くに出て来まして、歌舞伎座の幕見に並んで…
八月納涼歌舞伎の第Ⅰ部も見ちゃいました。

【第Ⅰ部】
一、おちくぼ物語(おちくぼものがたり)

 おちくぼの君  七之助
 左近少将    隼 人
 帯刀    巳之助
 阿漕    新 悟


十世坂東三津五郎に捧ぐ
二、棒しばり(ぼうしばり)

 次郎冠者    勘九郎
 太郎冠者    巳之助
 曽根松兵衛 彌十郎

いやー、やっぱり歌舞伎舞踊は面白いですー。
勘九郎と巳之助の「棒しばり」も回を重ねて欲しい。
巳之助さんの嫌みのない明るさにとても好感!がんばれ!

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