2009年12月23日水曜日

杵勝会・歳末チャリティー長唄演奏会にて、今年の聴き納め_その2

気を取り直して、杵勝会・歳末チャリティー長唄演奏会のレポートを。


この演奏会は、財団法人・杵勝会が、朝日新聞厚生文化事業団の後援をうけて、歳末の助け合い事業として毎年恒例で開催している演奏会のようです。去年、先生とはじめて聴きにいって、その満足度の高さから、今年も!と万難を排して伺ったのでした。

演奏会は2時から夜の8時半までぶっ通しで、全14曲を、家元をはじめ杵勝会の名取の先生方が次々に演奏します。これで入場料5000円とは!電車賃は高いけど、杵勝会には罪はありません。

プログラムは、以下の通り。

1)舌出し三番叟
2)多摩川
3)外記猿
4)風流船揃
5)俄獅子
6)梅の榮
7)土蜘蛛(切禿)
8)勧進帳
9)吾妻八景
10)時雨西行
11)松の翁
12)石橋
13)三曲糸の調
14)廓丹前

たっぷり(*≧m≦*) 

初っぱなの「舌出し三番叟」は露払いのご祝儀曲ですが、これが凄い!
立三味線の杵屋勝幸恵師匠を中心に三味線方7名と唄方7名(立唄は杵屋勝良師匠)女流の演奏家の方々がお揃いの黒門付きでずらりと並び、前列には囃子方6名。
勝幸恵師匠の「ハッ!」という息一つで、一糸乱れのない演奏を奏でます。この統率力、テクニックの水準の高さ…す、すご〜いヾ( ̄0 ̄;ノ
長唄は歌舞伎音楽ということなので、どうしても檜舞台に上がり、スポットライトを浴びるのは男性奏者ですが、実は女流の層も厚いのですね。それぞれお弟子を取るような実力者揃いなので、本当に巧い。いろんな人にもっと聞いてもらいたいです。
1曲目からノックアウトでした。

今回の演奏会で特筆すべき演目は、まず「風流船揃」でしょう。
杵勝の若手の注目演奏家で構成、立三味線は虫六が最も(!)注目している杵屋勝十郎さんが務めます!!ついに立三味線を受け持ちましたか。本当に将来が楽しみです。がんばれヽ(´▽`)/ ちょっと吉岡秀隆さんに似てますね( ´艸`)
そして、唄方、立ては勝彦さん、『伝の会』のゲストでS市にも来ていただいたことがありましたが、ご自身で『彦音会』を主宰したり若手のリーダー的存在なのでしょうね。風格を感じるようになりました。〈乗り鉄〉との噂も。
そして、唄方では杵屋巳津也さんが次席を務めました。その細身のお体からどうしてこんな声が出るのかと思うようないいお声です。地方公演でも見かけることがあり、注目していたのですが、やっぱり光っていました。

お囃子が賑やかな曲も聞き応えがありますが、私たちは三味線の人たちなので、どうしても唄と三味線だけの曲に聴き入ってしまいます。「梅の栄」「吾妻八景」「松の翁」は、三味線の聞かせどころがあり、面白いです。自分たちも演奏するつもりになって聞いてしまいました。(といっても、虫六はまだまだですが…(;´Д`A )

この会は、今年の5月に、家元が七代目杵屋勝三郎から、ご子息の杵屋清治郎さんが八代目勝三郎を襲名して引き継いだお披露目の会でもあり、「時雨西行」はその八代目が立三味線を務める演奏でした。若い家元を中心に、立唄は勝四郎、利光、東音味見純、禄丈、三味線が勝正雄、勝十郎、寿浩と、今後の長唄会の中心となって支えて行くであろう若い実力者が固めました。勝四郎さんの美声はますます芳香を増し、勝正雄、勝十郎ががっちり演奏を支え、寿浩さんの上調子が美しすぎて涙が出ました。寿浩さんは三味線を弾く佇まいが、なにしろ美しいのですよ(* ̄ー ̄*) この世の存在に思えません。

そして(!)このために聴きにきましたとも言うべき眼目の一曲は、板東玉三郎さんの『壇浦兜軍記 阿古屋』でも一挺一枚のご指定がかかるという、直吉・勝国コンビの「三曲糸の調」であります。今回はそれぞれ松永忠次郎(唄)と勝松(三味線)が加わり厚みを増した演出でしたが、これはもう言葉にならない満足度。心が無になる、音だけになる至福を味わいました。
玉三郎丈また『阿古屋』かけてくれないかなぁ。一生のうちにこの演奏をもう一回聞いてから死にたいです(爆)
あんな素晴らしい到達点に及ぶとはとてもとても想像がつきませんが、いつか、自分が「三曲」を弾けることがあるんだろうか。先は長いけど、がんばりたいと思います(常に前向き)

そして(!!)おおとりは、七代目勝三郎改め勝作元家元が立三味線、杵屋禄三改め東成師匠が立唄の「廓丹前」。華やかな演奏でした。元家元の華奢な身体から放たれるエネルギーに脱帽。みんなこの方を目指して精進しているんですね。東成師匠の声は深みがあって色っぽく、日本人の声って美しいなぁとお聞きするたびに思います。

様々な音楽が行き交う現代ですが、日本の男性歌手で一番美しい声を出せるのは長唄の方々でないかと、虫六は秘かに思っています。聴ける機会があまりにも少ないのが本当にもったいないです。姉弟子Cさんが言ってましたが、この長い演奏会をもっと短くして、聞きやすい値段で(この会は内容に比して破格だと思いますが)機会を増やせばいいのに…と。私もそう思います。若手の演奏家には個性的な演奏活動をしている人たちもいるのに、どうも浸透してこないのは何がいけないのかぁ?彼らの修行の障害にならないで、芸を育てていける環境を保ったまま演奏活動を充実させ、かつ、普及していく方法…。
しかし、先だっての事業仕分けでは、芸術家の国際交流等(芸術家の国際交流、伝統文化こども教室事業、学校への芸術家派遣、コミュニケーション教育拠点形成事業)は大鉈を振り切られてしまいました。何考えているんでしょうか(○`ε´○)

個々の芸人さんたちが一生を掛けてやっと維持しているこの芸能のレベルを下げさせるようなことにはならないで欲しいと、圧倒的な芸を耳にして、一層強く願うのでした。

あ、来年は新しい家元の「八代目杵屋襲名披露記念全国大会」が、国立大劇場で9月22日(水)に開催されるそうです。いまから楽しみです。


記録【杵勝会・歳末チャリティー長唄演奏会】
平成21年12月20日(日)午後2時開演予定
有楽町マリオン朝日ホール
入場料5,000円(学生優待3,000円)


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