2011年12月10日土曜日

「都鳥」

今月からお稽古の曲が変わります。
新しい曲は「都鳥」。
姉弟子の皆さんも通過してきた曲で、ゆっくり弾いても10分ほどの練習曲にも相応しい曲と思われます。

で、先生のお稽古をいただくにあたって、曲についての要説など調べてみました。

「都鳥」

制作年代 安政2年(1855)6月
作曲   二代目杵屋勝三郎
作詞   伊勢屋喜左衛門(片町組五番組中の札差)

隅田川の春から夏へかけての情景を品良く諷った独吟もの。唄の美声が充分にきかせられ、情緒あふれる作曲である。(本調子)
(「長唄名曲要説」より)

「たよりくる 船の中こそ床しけれ
 君なつかしと都鳥
 幾夜かここに隅田川
 往来の人に名のみ問われて
 花の影 水に浮かれて面白や
 河上遠く降る雨の
 晴れて逢ふ夜を 待乳山
 逢うて嬉しき あれ見やしゃんせ
 翼かはして濡るる夜は
 いつしか更けて水の音
 思ひ思うて深見草
 結びつ解いつ 乱れ逢うたる夜もすがら
 はやきぬぎぬの鐘の音
 憎やつれなく明くる夏の夜 」


もっと詳しくみていくと、成立は
「女清玄の隅田川の場面の独吟に用いられたもの」で、出来が良かったので独吟ものとして流行し人気がある曲とのこと。

通称《女清玄》は、四世鶴屋南北作の世話狂言『隅田川花御所染(すみだがわはなのごしょぞめ)』が正式タイトルで、文化11年(1814)3月江戸・市村座の初演だそうです。いわゆる〈清玄桜姫物〉の一つで主役の清玄を尼にしたもの。
「入間家の惣領花子の前は剃髪して清玄尼となるが、死んだと思った許嫁松若に出会い破戒し、妹桜姫に嫉妬して浅茅原の庵室で殺される。」というあらすじで、「筋よりも直接感性にうったえる野路の玉川の蛍狩で松若と清玄尼が契りをかわす夢の場や、春の隅田川で白魚の網を打つ松若と、零落した清玄尼がすれ違う夜船の場面などが魅力」(「新版歌舞伎辞典」より)とあります。この春の隅田川の場面で使われた曲が「都鳥」と言うことですね。
この演目は、女形岩井半四郎(五世)の見せる坊主頭姿に扇情的な倒錯の美学があり、それが頽廃的な幕末の世相にあって大当たりをとり、改題・改作を重ねつつ今日にまで舞台生命を保っているとのこと。初演から作曲までのタイムラグは、この繰り返し上演の過程で、付け加えられた演出だったということでしょう。

ぼろぼろに落ちぶれた清玄尼が、その原因になった死んだはずの許嫁とすれ違う無情で皮肉な場面を、春の隅田川のうららかな情景と恋心を美しく唄った「都鳥」が彩ることで、より悲劇を色濃く映し出したということでしょうか。倒錯しているなぁ。

(「隅田川花御所染」の五世岩井半四郎 豊国画 「歌舞伎辞典」より。)

ところで、ここに登場する「都鳥」とは、「百合鷗(ゆりかもめ)」(モノレールではありません)のことだそうで、隅田川限定の適用ですね。古典『伊勢物語』の在原業平が詠んだ「名にしおわば いざ言問はん都鳥 わが思う人はありやなしやと」の和歌を掛けているのはもちろんのこと。浮き寝の鳥にかこつけて逢瀬をちぎる恋仲という実はエロチックな内容を上品に表現した唄でもあります。

もともと場面の独吟として成立した唄なので本来は前弾きなどはなかったのですが、のちに独立して演奏されるようになって前弾きが工夫されるようになったそうで、流派によっていろいろなパターンがあるとか。ちなみに文化譜(赤本)には、4種類載っております。隅田川の情趣を表現しているので、いずれも「佃」の旋律が主題として取り入れられているそうです。

具体的な曲節については、先生のお稽古で教えていただくわけですが、予習で聞いた感じ(音源は「七代目芳村伊十郎 長唄大全集15」の山田抄太郎師匠の三味線)ですと、優美艶麗なところと合方のパリッと小気味よく聞かせるところのメリハリもあり、何げに技術を要求される感じもあり(汗)、大変面白い曲かと。

お稽古がはじまるのが楽しみなのでした。がんばるぞ~!

〈今日の参考文献〉
浅川玉兎「長唄名曲要説」1976 日本音楽社
「新版歌舞伎辞典」初版1983(新版2011) 平凡社


2 件のコメント:

  1. 来月の「ライブ」に行く前の事前に内容を調べた。分かりやすい解説に感謝しています。

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  2. コメントありがとうございます。恐縮です。

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