12日、以前から約束していた「四代目猿之助襲名公演」を母と観るため、休みを調整して、朝から相馬市の実家に向かいました。
途中、国道6号線の亘理、坂元あたりにやってくると、前面にフラッグを貼り付けた砕石なんかを積んだダンプカーにひっきりなしにすれ違いました。色違いのフラッグには国交省、林野庁、水産庁…の表示。「復興は全然進んでない…」という報道もよく目にしますが、インフラの公共事業に関してはそうとう予算が投入されているということを、あのダンプカーの台数で実感した次第。地元にお金が下りているかどうかは不明ですが…。
相馬市に入ったら、野馬追いモードになっていて、城趾のまわりは幟が沢山たっていました。でも今年は野馬追いに行けないよ〜。
それはそれとし今日は歌舞伎です。しかも南相馬市で!
南相馬市の「ゆめはっと」という市民会館が会場で、なんと!亀…もとい、四代目猿之助丈の襲名公演であります!襲名公演をあえて相馬地方でやろうという歌舞伎俳優を私は他に知りません。採算合うのか?とか、受け入れる方も大変だったと思いますが、何はともあれ「この目で観たい」。というわけで、地元先行発売だったチケットを母に買いに行ってもらいなんとか席をゲットしました。
いちお、遅刻厳禁ってことで、実家で母を拾い、早めに会場に入りましたら、まだ開場まで1時間以上ありました。ロビーで座って待とうとしたら、すでに30人以上いたね。2階のホールの前に行ってみたら、ここにも30人くらいいたね。どんだけ待ち遠しいんだ、相馬の人たち!
会館のロビーには南相馬市民の願い事の短冊をさげた七夕飾りが…。
「おいしゃさんになれますように」「バレリーナになれますように」「○○高校に受かりますように」とか、子どもらしい願い事にまじって「一日もはやく元の町に戻りますように」「家族が一緒に暮らせますように」との切実な願いも、当たり前ですが、ありました。「自衛隊に入れますように」っていうのが、なんだかリアルだなと思いました。
町に市民が帰って来て、立派なホールに活気が戻る日が1日も早く来ることを、心から願うばかりです。
それにしても1時間以上の待ち時間、どうやって時間を潰そうか…と思っていると、母の隣に、見ず知らずの同年輩のご婦人2人が座りました。と思ったら、突如、自分が作ったペットボトルカバー(なにやらサマー毛糸で編んだやつ。ちなみに保温効果もなんもない)を自慢しはじめる虫六母…。(じぇじぇじぇ、なんだなんだ、なにが始まるんだ…)。それを感心しながら受けこたえているご婦人たち。調子に乗って、着ていた服(自分でレース編みで作ったらしい)やバッグ(これも手作りだったらしい)を自慢…、自然に盛り上がるご婦人たち。「これは、センターで習ったの。これは自分で考えて」「あらら、パイナップル編みの変形みたいだね」「んだの、ここの紐のとこ工夫したのね」
…まったく付いてイケナイ虫六。
恐るべし、田舎のおばあちゃんたちのコミュニケーション能力。
…とりあえず開場。やれやれ。歌舞伎を観に来てんのよ、今日は。
平成25年度(公社)全国公立文化施設協会主催東コース
松竹大歌舞伎 市川亀治郎改め 四代目 市川猿之助襲名披露
7月12日(金)15:00〜 福島県南相馬市
南相馬市民文化会館 ゆめはっと
一、
歌舞伎十八番の内 毛抜
(けぬき)
粂寺弾正
市川右 近
小野春道
市川猿 弥
秦秀太郎
市川春 猿
八剣数馬
市川弘太郎
腰元巻絹
市川笑三郎
小野春風
市川笑 也
二、四代目市川猿之助襲名披露 口上
(こうじょう)
亀治郎改め市川猿之助 幹部俳優出演
三、
三代猿之助四十八撰の内 義経千本桜
(よしつねせんぼんざくら) 川連法眼館の場
佐藤忠信/忠信実は源九郎狐
亀治郎改め市川猿之助
亀井六郎
市川猿 弥
駿河次郎
市川弘太郎
川連法眼
市川寿 猿
静御前
市川門之助
源義経
中村梅 玉
今年の公文協東コースは、澤瀉屋一門に梅玉丈を加えた一座。今週は、月曜日(8日)の青森市(昼夜)にはじまって、→八戸市(火・昼夜)→北上市(水・昼夜)→盛岡市(木・昼夜)→南相馬市(金)→須賀川市(土)とフル稼働。移動しながら決まった時間には幕を開けるわけですから、巡業ってすごいですよね。盛岡から南相馬市、須賀川と、交通的にも不便な状況もあるし、役者さん、スタッフさんともどこに泊まってどうやって時間を合わせているのかと想像すると、制作担当さんにも頭が下がります。
そして、そんな旅回りにあって、全然手を抜かない妥協のない芝居を見せてくれた澤瀉屋のみなさんにまずは感服しました。
猿之助丈が真剣勝負で舞台に立つだろうということは想像していました。
それぞれの会場に合わせて限られた条件で最大公約数的セットを作るわけでしょうから演出にも限界はあるのですが、(僭越ながら、新橋演舞場のジェット花吹雪の襲名公演も、金丸座の感激かけすじ宙づりも観ている虫六です)この南相馬市の、絵に描いたような地方の文化センター仕様の舞台で、宙づりこそありませんでしたが、十分に素晴らしい舞台で素直に胸に熱いものが込み上げてきました。
あの、「四の切」の源九郎狐でした。
けなげで、かわいくて、身も軽やかな…。去年の6月の襲名以来、いったい何回この演目を重ねているのかなー、ほんと観ていて気持ちが良いです。
ひとつひとつの型が決まる、けれんが決まるごとに、わぁーっと会場が沸きます。自然に拍手が打たれます。大向こうこそ掛かりませんが、それは澤瀉屋がサクラを入れていない証拠でもありますね。2階席でみていたけれど、「かわいー」「ええっー」という感嘆の合いの手が聞こえてきて、こういう空気は役者も感じていたのではないかな。
今回、梅玉丈の義経も良かった。子狐が親を思う健気な気持ちを解して、肉親の兄に追われる立場になった自分の境遇を思い、子狐に同情して鼓を与えるわけですが、その義経こそが憐れで主人公だったんだということが、なんだか伝わってきました。義経役にこういう感慨を覚えたのははじめてでした。
虫六が感心したのは、「四の切」だけでなく、右近丈が粂寺弾正
をつとめた「毛抜」もとても良かったということ。澤瀉屋全体がすごく良い芝居を見せてくれたということです。
右近丈、とても大きな大らかな芝居で面白かった。こういう役はニンですね。珍しく笑也丈が女形でなく、小野春風役でした。腰元小磯の兄を名乗る万兵衛に因縁を付けられるところで、「じぇじぇ」とつぶやいて、会場を沸かせていました(笑)。(おばちゃんたちもみんな観てます『あまちゃん』!)このネタ、青森からやっているでしょ。
個人的には、笑也丈に静御前をやって欲しかったが…。
福山の襲名幕も一緒です。
口上も心がこもっていて良かったです。門之助丈の本名が「相馬」さんだとか、実は笑也丈は青森出身で、この業界では東北出身者が少なくて、訛りを直すのが大変でしたとか(笑)。
猿之助の「みなさん、よくぞ生きていてくれました」には胆を潰しましたが(苦笑)、ずっと駆けつけたかったんだ、という思いが痛々しく伝わってきて、ありがたいと思いました。この公演をきっかけに、澤瀉屋が南相馬で歌舞伎公演を定期的に行っていけるような地盤が築けると嬉しいなと思います。(お手伝いできることがあれば、なんでもするけどなー)
終演後、会場を出たお客さんたちと駐車場にむかって歩いていたら、「良かったね−」「満足したー」「○○さんも来たがっていたけど、2枚しか買えなかったから残念だったね」(購買制限があったのでした)という感想が聞こえてきました。
同行した実家の母もはじめてみた歌舞伎に満足していました。さっそく、お茶飲み友達のおばあちゃん達に猿之助の自慢話をしていることでしょう。