さて、2日目の23日(日)は今年のこんぴら歌舞伎の千穐楽でありました。千穐楽の恒例行事として小屋が開く前に「三味線餅つき」があります。
荷物をまとめて、お世話になった虎丸旅館さんに一時預かりをお願いし、靴を履こうとしたらふと目に入ったこの絵看板。
虫「おんやー、『身替座禅』ですね。今年のために出されたんですか?」
おかみさん「いえいえ、いつもあるの。たまたまウチに回って来たのがこれだったんだけど得しちゃいました。笑。今年の仁左衛門さんの、良かったわねー( ^ω^ )」
虫「はい〜〜〜っ〜〜(*≧m≦*) 」
そんなわけで、良い場所で見ようと早くに出かけたはずでしたが、小屋前にはもうけっこう人垣ができており、最前列には行けなかったのでした。特に、虫六の前には長身の若者が、昨日の御柱のごとく立っていて後ろの人たちみんな見えないの。(人なら話は通じるだろう…)と、おばちゃんパワーで「大変厚かましくて申しわけないけれど、あなた大きいからちょっとしゃがんでくださると、後ろの人が10人くらいみることが出来ますよ…」と声を掛けたら、少し怪訝な顔をしつつもグループ一同(4人くらい)しゃがんでくれたので、見晴らしがぐーんと良くなりました。(周りの皆さんからテレパシーで大向こうを受け取った虫六でした。笑)
若者よ、空気読んで気を利かせようよ。たのむよー。
琴平高校生のお囃子クラブの生徒さんたちの「こんぴらふねふね」の伴奏にあわせて、餅つきするんですが、見に来たお客さんに何臼か先についてもらって場を温め、待ってました!って感じで、今度は役者さんが順番に出て来てお餅つきをします。(別途折り込みページ参照)
地元のみなさんがこの公演を盛り上げようとしてやっていて、役者さんが華を添えてくださっているという感じなんでしょうね。殿(しんがり)は、襲名披露の雀右衛門さんが羽織袴で登場してくださいました。襲名おめでとうございます!
仁左衛門さんが登場しなかったので、お目当てにしていたご婦人方はブーブー言っていましたが、大幹部は出ないのも恒例らしいッスよ。(「お祭り」切りの演目ですし、まだ休んでていただきましょう…)
ついたお餅はお客さんに振る舞われました!虫六子のお土産に持って帰ろう。
さあて、2日目昼の部の席は…、
1階い9の枡席。
比較的うしろっ方ですね。
ブドウ棚前方に掛けられた、役者の紋付き提灯。松嶋屋(仁左衛門)の七ツ割丸二引とか、京屋(雀右衛門)の京屋結びとか、明石屋(友右衛門)の丸十とか、松嶋屋(孝太郎)の追いかけ五枚銀杏とか…。あれっ?松嶋屋の紋が2つあるけど、仁左衛門さんと孝太郎さんは別の紋使ってるんだっけ?
あれれ、枡席に座椅子が置いてある。前は無かったがなぁ。狭い空間がいっそう狭くなって後ろの人が足を伸ばせなくなっているぞ。
気の利くお客さんたちは座椅子を横に配置したりして、枡ごとに適当に場所を作っているみたいなので、我らも仮花道と歩み板の角に背をずらしたり座椅子をとっぱらったりして隙間を作りました。足をのばしたり、多少態勢を変えながら見れないと苦しいですからね。虫六は職場で使っている
骨盤サポートシートBackjoyを持ち込んでみたら(ちらっと見える緑色のやつです)、座椅子なしでも腰が立って楽でした。
○四国こんぴら歌舞伎大芝居
中村芝雀改め五代目中村雀右衛門襲名披露
平成29年4月8日(土)~23日(日)
【第一部】
福内鬼外 作
一、神霊矢口渡
(しんれいやぐちのわたし)
お舟 片岡 孝太郎
傾城うてな 坂東 新悟
新田義峯 大谷 廣太郎
六蔵 片岡 松之助
頓兵衛 坂東 彌十郎
二、忍夜恋曲者
(しのびよるこいはくせもの) 将門
傾城如月実は滝夜叉姫
芝雀改め中村 雀右衛門
大宅太郎光圀 尾上 松緑
三、お祭り
(おまつり)
鳶頭松吉 片岡 仁左衛門
「神霊矢口渡」ははじめてみる演目。全体はどうやら『妹背山婦女庭訓』のお三輪や『新版歌祭文~野崎村』のお光の役どころにみられる、田舎娘が三角関係と知らずに身分違いな恋をして、結局自分が身を引いて命を落とすというプロットなんですが、なんだか珍奇な話でした。急に気を失ってみたり、白旗で戻ったり、瀕死なのになかなか死なずに太鼓打ったり…と思ったら、これ平賀源内がペンネームで書いたお芝居なのね。なるほど〜。
田舎娘お舟・孝太郎と傾城うてな・新吾の対比が良かったです。
襲名披露の演目は『将門』。
筋書きに常磐津和英太夫さんのお名前があったので、どこどこってなったんですが、残念ながらこの日は出演されていませんでした。
よく考えれば当たり前ですが『将門』って相馬藩の話だったのですね。予習が足りませんでした。作り物の蝦蟇は迫力なくて妖術あるのか〜本当に?でしたが、古風な滝夜叉姫は当代雀右衛門さんにとてもあったお役だと思いました。
そして、仁左衛門さんの『お祭り』。
いやー、この演目はこれまで勘三郎さん、三津五郎さん、仁左衛門さんご本人のも拝見しましたが、そのどれとも違う新鮮な舞台でした。
なんて表現したらいいのかな、まるでマジックや手妻をみているような…。
もちろん粋でいなせな鳶頭、仁左衛門さんは立っているだけで絵になるわけなんですが、そのカッコ良さがとても自然で全く力んでない感じなのです。しかし、仁左衛門さんが踊り出すと、もうちょっとした所作や呼吸によって舞台全体がコントロールされていて、また客席もその息にいつの間にか飲まれていきました。
色っぽいモテ話を披露するクドキの場面では、衣装の変化や使う小物まで美しくて陶然と心を鷲掴みされ、また、やんちゃな連中に喧嘩をふっかけられる場面の「所作立て」といわれる立ちまわりでは、まるでブロードウェイミュージカルのよう(みたこと無いけど)に、全員の動きが一体で見事でした。すべてが仁左衛門さんの身体の延長にあるように感じられました。そして、若い者仁助と争いながら面を被って踊る場面では、おかめ面の仁左衛門さん、白い袖を面の下にやって身体を隠しながら女役になって踊るんですが、このときに袖からちょっとだけ出た指が…たおやかな女性のそれで、うわっ、蓑助さんが使う文楽人形みたいだと一瞬脳内にパチパチしたと思ったら、ぐいっとその世界に持っていかれて夢中でみているうちに、気がつけば仁左衛門さんは鳥屋に消えてゆき、はっと夢から覚めたような感じでした。何だったんだー!?いまのは…。
73才にしてこの色気、そして、この踊り。本当に日本の芸能ってどこまでものびシロがあるんですね。「まことの花」をみた思いでした。
*後日、帰宅してから復習したいなと思い、ビデオデッキを漁っていたら、「古典芸能への招待」で2014年6月の歌舞伎座での仁左衛門さんの『お祭り』を発見!
「先代の勘三郎のおじさんなんかがこの役をやると、いかにも鳶頭って貫禄があっていいんですけど、私がやるとどうしても若頭くらいにしかならなくて…」とインタビューに答える松嶋屋。(いやいやいや、若頭でけっこうです!!!!)それにしてもカメラが撮った映像を編集されてしまうと、実際の舞台を集中してみた時に体験するような「場に飲まれる」感覚って伝わらないのね。うわー、ここでカットしてしまうんですか〜って、もったいない感じでした。)
とにもかくにも、金丸座で期待以上の仁左衛門丈の舞台を見ることが出来て、遠路琴平を訪れた甲斐がありました。
(できれば今回参加できなかったN姐さんにこの舞台を見せたかったなぁ。)
そんなわけで、舞台がはねたら、急いで帰り足。
千穐楽の夜の部もみるのーっていうKコトラさんを小屋に残し(ずるー!)、我々は狸屋さんでまずは腹ごしらえ…。2日連続で「天おろしぶっかけうどん」。これが好きだから、毎日でもいいの。
帰りは特急「南風」で岡山まで戻り、そこで倉敷コースのI田さんと別れて虫六は新幹線で東京へ。…しかし、怒濤のツアーはこれで終わらないのであった。