2017年11月14日火曜日

10月に読んだ本

10月の読書メーター
読んだ本の数:3
読んだページ数:624
ナイス数:5

浅草演芸ホールの看板猫ジロリの落語入門浅草演芸ホールの看板猫ジロリの落語入門感想
たしかこの猫の噂はね、去年の長唄の会のゲストでいらしてくださった柳家小菊師匠から聞いたんですよ。浅草演芸ホールが鼠対策に猫を飼った話。それでどんな猫なんだろうと気になっていたら、なんと写真集が出るほどの看板猫になっていたんですね。「ジロリ」って名前がついていたのかー。昔、実家でかっていた猫(名前は「ゴマ」)にも似ていて親近感。落語家さんは猫好きが多いのかな?っていうか、猫好きの人たちを寄席に誘い込もうっていう意図の入門書でした。でも「ジロリ」に会いに浅草演芸ホールに行ってみようかな?と言う気になりました。
読了日:10月31日 著者:

ちゃぶ台返しの歌舞伎入門 (新潮選書)ちゃぶ台返しの歌舞伎入門 (新潮選書)感想
著者の飄々とした文体とゴレンジャーにまで触手を伸ばすサービス精神に油断して読み進んでしまいますが、これ決して入門書ではナイと思います。400年という時間をかけて洗練もされ、またご時世や変化する大衆の感性に影響されつつ歪みながら、時々の俳優の身体を媒体として発展してきた歌舞伎。すこし興味をもって通い出すと、同じ芝居を別の俳優が演じる面白さ、世界や趣向などの奥深さを知り、決まり事なんかも気になってくる…そんな感じになった時、この本は立体定規を使うように解説くれて、痒いところを心地よく掻いてくれます。きっと。
読了日:10月30日 著者:矢内 賢二

新版・落語手帖新版・落語手帖感想
銀座シックスにある蔦屋書店の古典芸能コーナーで見つけて即買い。最近、カーステレオ代わりにiPhoneを繋いで落語を聞くことも多いので、こういう本を探していました。1988年に駸々堂から刊行されたものが、文庫化され、更に加筆・改訂されて新書版に。ロングセラー本ですね。1噺を1ページで、「梗概」「成立」「鑑賞」「芸談」「能書」でまとめられています。何かに似てるな…と思ったら、渡辺保先生の「新版・歌舞伎手帖」だ、同じ講談社だ、と気づいてしまった。構成そっくり。でも、どちらも便利です。
読了日:10月29日 著者:矢野 誠一

読書メーター

2017年11月13日月曜日

国立劇場10月歌舞伎『通し狂言 霊験亀山鉾』

今年は仁左衛門丈の「悪の華」が乱れ咲きなのでございます。

夏の大阪松竹座に仁左衛門丈の『盟三五大切』を拝見しに参上したことは、以前に書きましたが、10月には国立劇場にてこれまた悪役が主人公の南北もので『通し狂言 霊験亀山鉾』が上演されました。(あう、1ト月もライムラグ…忝ない)

…というので、家元の会終了後、休日を虫六子のアパートにしつこく滞在して、初日の舞台をみて帰る作戦にでた虫六でございました。まあ、がんばった自分へのご褒美に、仁左衛門の極上注入ってことで…ちょっと過分なご褒美かも知れないけれども。


四世鶴屋南北=作 奈河彰輔=監修 国立劇場文芸研究会=補綴
通し狂言 霊験亀山鉾れいげんかめやまほこ)― 亀山の仇討 ― 四幕九場

序  幕 第一場 甲州石和宿棒鼻の場
      第二場 同 石和河原仇討の場
      第三場 播州明石網町機屋の場
二幕目 第一場 駿州弥勒町丹波屋の場
      第二場 同 安倍川返り討の場
      第三場 同 中島村入口の場
      第四場 同    焼場の場
三幕目       播州明石機屋の場
大 詰        勢州亀山祭敵討の場



(出演)
藤田水右衛門  
古手屋八郎兵衛    片岡 仁左衛門
 実ハ隠亡の八郎兵衛
大岸頼母      中村 歌  六
石井兵介・下部袖助  中村 又 五 郎
石井源之丞     中村 錦 之 助
源之丞女房お松    片岡 孝 太 郎
若党轟金六     中村 歌  昇
大岸主税      中村 橋 之 助
石井家乳母おなみ   中村 梅  花
藤田卜庵・縮商人才兵衛  片岡 松 之 助
丹波屋おりき    上村 吉  弥
掛塚官兵衛・仏作介  坂東 彌 十 郎
芸者おつま     中村 雀右衛門
石井後室貞林尼   片岡 秀 太 郎
                    ほか

「亀山の仇討」の世界に、通称「鰻谷」と呼ばれる「お妻八郎兵衛」の世界が綯い交ぜにになっている構造だそうで、この度、仁左衛門が演じるのは、敵役の藤田水右衛門と、その水右衛門に瓜二つの隠亡・八郎兵衛の二役。

ニヒルな黒光彩を放つ藤田水右衛門は、初っぱなから返討ちにつぐ返討ちで、それも徹底的にキッタナイ手を使って無残に殺ってしまう、文字通り冷酷非道な冷血漢。何かに水右衛門を色悪と紹介しているのを読んでから観にいったのでしたが、こりゃ実悪って役じゃないのぉ−、360度悪い奴だよ〜と思っていたら、あとで、長谷部浩さんが劇評で「仁左衛門が演じると実悪の水右衛門に色悪の魅力が加わる。」と書いているのを読んで、(その通り!)と膝を打ちました。なんだかんだで、一番麗しいのは役者としての仁左衛門なのですね、で納得。

「錦絵のような」と仁左衛門が会見で話してましたが、本水の殺しの場、だんまりの勢揃い、確かに絵面にこだわった上等美しい舞台でした。

見せ場を上げれば指が足りませんが、焼場の場、八郎兵衛の草井戸の中に仰向けバッタリからの、棺桶破りの早替わり。涼しいどころか冷たいオーラを纏っての水右衛門の登場の場面。役者の年齢のことなど言うは野暮でしょうけど、超人としか表現できない、仁左衛門の身体性。

隠亡(=おんぼう)とは死者の火葬や埋葬をした墓守のことで、江戸時代は賤民身分の扱いでした。そんなわけで、八郎兵衛は何か悪事をやらかしてそんな身分に身を落とした人物のようなのね。罪人の印の腕の彫り物隠していたしね。どちらかと言えば、八郎兵衛の方が「色悪」に当たる役どころでしょうか。ちょっと鬢に唾をつけて髪を整え、揚屋に上がる場面などは色っぽいのに、おつまに愛想尽かしを食らった後の「覚えていろよ」の声色はドスが効いてて震え上がりました。
演出では、この場面のすぐ後で、おつまが手紙をしたためるところの背景に流れる
 〽︎憂き事に、夜半も鳴くなる時鳥…
の独吟が全く綺麗な旋律でウットリでした。
今回の登場人物では、吉弥さんのおりきがとても良かった。

でも、全体には脇の役者さんにはまだかっちりセリフが入っていない方などもいて、ちょっと間が狂ってしまったり…。せっかくの仁左衛門の完璧な熱演に水を差されたところなどもあって、(おいおい)でしたが、初日ってこういうものなのかな?

東京住まいなら、何度か足を運んで舞台の変化を楽しんだりもできるのでしょうが、鄙の都の住民である虫六には出来ない技なんですが…、なぜかこのお芝居は2回みるチャンスがありました。チケット売り出しの日に参戦できない可能性があったので、この芝居だけはどうしても観たいと思っていたので、保険にイープラスの先行予約を押さえていたのです。そして、この日も休みをとれたので来ちゃいましたよ。


イープラス、いろいろ特典がありまして、お弁当やら(普段は借りない)イヤホンガイドやら。(筋書きは前回買ったやつです)サービスいいのね。
(でも、後ろの方に劇場側で発売した席とダブルブッキングがあったようで、仔細は分からないけどトラブルになってました。↓選りに選ってこんな日に劇場は焦ったでしょうね。)

というのは、なんとこの日は堀向こうにお住まいの両陛下がお出ましになる展覧芝居の日だったのでした。もちろん偶然です。

第二幕「焼き場の場」をご覧になり一旦ご退場されたので、(えー、これだけ観てお帰りに?それはないでしょー!)と思ったら、さすがにもう一度お出ましになり、大詰めまでご覧になりました。会場の皆さんの拍手に手を振って応えられて、なんだか一体感。

随行の方も相当たくさんいて、大詰めの最初に上手舞台側から報道の三脚やらカメラが何台か立ったけど、ものの1〜2分で消えました。きっと細かく決められているんだろうな。
それにしてもやんごとなきお立場とはいえご窮屈でしょうね。ご退位されたあかつきには、好きな芝居ならたっぷり通しでご覧いただけますように。

そのせいとは言いませんが、この日の役者さんたちは初日にくらべて緊張感がありました。仁左衛門さんは相変わらず完璧でしたが。

両陛下に、胎児殺しをみせる仁左衛門。
両陛下に、本水の中の立ちまわりをみせる仁左衛門。
両陛下に、殺した人の数を指折ってみせる仁左衛門。
両陛下に、井戸に逆さま落ちからの早替わりで棺桶破って登場をみせる仁左衛門。
…役者だからこその冥利ですよね。

そして、最後は幕があがったままの柝で、からっと一座膝を折っての「本日はこれぎりー」という締め方、大好きです。夢から覚めるようで。

終演後に会場を出たら、黒塗りが何台も待っていて、ものものしいことになってました。
が、お客さんも陛下の出待ちでなかなか帰ろうとしないのね。
このころ、舞台を終えた仁左衛門さんは化粧を落とさず陛下と歓談されていたらしいです。今月の通し狂言をやりきって、何日もおかず歌舞伎座で早野勘平をやるというお話をして仰天されたとか…。やっぱり超人ですかね。