しかも、部長刑事の木村伝兵衛を風間杜夫が、新米刑事の熊田留吉を平田満で、当時のキャスティングそのままで!
かつ、演出は「劇団☆新感線」のいのうえひでのりが引きうけた。
そんでもって、うれしいS市公演。…観にいかない理由が見つからない…というわけで、行ってまいりました。
○『熱海殺人事件』
1月20日(水)18:30開場 19:00開演
会場 電力ホール
全席指定 8000円
木村伝兵衛 風間杜夫
熊田留吉 平田満
片桐ハナ子 愛原美花
大山金太郞 中尾明慶
演出 いのうえひでのり
なにしろ33年ぶりの再演ですので、風間さんも平田さんも貫禄がついていましたし、客席の方も33年スライドして(たぶん)年齢層が上がっていましたが、芝居は古びていないっていうか、つかこうへいさんの作品の普遍性を思い知りました。また、風間さんのギラギラした化粧も健在でぶっ切れて快感すら感じる悪態とスピード感あるセリフ回し、平田さんとの掛け合い、面白かったなー。横隔膜の大運動会でした。
休憩なしでやりまくってましたが、役者ってエネルギッシュだな。特に平田さん、歳を感じさせませんでした、若—っ!
33年ぶりとか書きましたが、実は、虫六はリアルでつかさんのお芝居をみておりません。その頃は、ど田舎の高校生→貧しい東北地方都市の大学生に移行しているころでしたので、東京のサブカルは「情報」でしかなかったんですね。(東京は展覧会と珍しい映画を見に行く場所でした。リアルで東京まで芝居を観にいくようになったのは少し遅れて野田秀樹の『夢の遊民社』です。)それでも、映画版『蒲田行進曲』(←もちろんこれは映画館で見ましたが!)が作られる前に、虫六はつかこうへいを知ってはいました。すなわち…
和田誠『倫敦巴里』より |
こんな実験的なエッセイや
『和田誠百貨店』より |
『和田誠百貨店』より |
こういうポスターで。
つまりすべて和田誠さんのお仕事を通して、ということです。
もちろん『熱海殺人事件』のポスターもみていましたが、手元資料ではすぐに探し出せず残念!
そのころ、唐組のポスターは横尾忠則さんが作っていてこれもそうとうショッキングだったのですが、虫六のカリスマは和田さんで、シンプルな線と絶妙な色彩感覚で表現されるデザイン性の高いイラストやポスターや本の表紙の作品はもちろん、キネマ旬報の『お楽しみはこれからだ』を初めとする映画や芝居やジャズの魅力をイラスト付きで紹介したエッセイはバイブルでした。今思えば、このような世界へ深く誘い込まれる扉を開いてくれたのも和田さんの仕事にあったのだと…。
そんなわけで、このお芝居についても、虫六は和田語や和田絵で訳されたイメージを勝手に膨らませていたのです。
しかし、今回はじめてその芝居を見ることなり、あー、これ33年前に見てたらあまりにもストレートにパンチが入って立ち直れなかったかもしれないなーと思いました。
大山金太郞が殺したもの。
…集団就職で上京してきた工員の大山は、田舎で介護士をしている幼馴染の恋人アイ子を熱海に旅行に誘い、どういう理由か殺害に及んでしまう…
そのころは自分の田舎もんの出自といいますか生まれ育ちに、愛着もあったけれど、それ以上に負い目や羞恥心が歪つなまま巣くっているという感じが拭い難くありましたから。
とはいえ、33年前だったらそんなパーソナルな感傷で見たかも知れませんが、いま改めてこのお芝居をみると、33年前にあった「東京ー田舎」という構図というよりも、日本人は日本そのものを拒否して、息づいていたはずの大事なものを抹殺して、誤魔化したまま、「東京」的な幻想をすみずみまで浸透させながら国を作ってきたのかな…ということを、当時のシクシクした疼きと重なりつつ感じられずにはいられませんでした。
そういう意味で、つかさんの脚本に改めて脱帽したのでした。