2015年7月20日月曜日

五島美術館「特別展 瓷華明彩-イセコレクションの名陶-」

東急・大井町線の上野毛にある五島美術館で、イセコレクションによる特別展「瓷華明彩」を開催しているというので、上京ついでに寄ってきました。

イセコレクションは、卵で有名なイセ食品の会長兼社長の伊勢彦信氏が蒐集した美術コレクションで、虫六は2012年に金沢の石川県立博物館で「中国陶磁名品展」ではじめて出会い、その質の高さに酩酊、忘れられない記憶となっていました。
そのコレクションが再び東京で見られるというので、ちょっと遠いけど足を運びました。

五島美術館は、東京急行(東急)電鉄の創業者・五島慶太(ごとうけいた1882-1959)が戦前から戦後にかけて蒐集した日本と東洋の古美術品(明治期以前)をもとに構成され、創立された美術館。虫六は門外漢ですが、茶道をされている方々にはお馴染みかもしれません。
暑っつい日でしたが、閑静な住宅街(というよりお屋敷街)を歩いて美術館に到着。入り口の掲示板には、長唄の演奏会のポスターなども貼ってあり…、羨ましすぎる文化環境です。


○「特別展 瓷華明彩-イセコレクションの名陶-」
期間:2015年6月27日[土]―8月9日[日]
休館日:毎月曜日(7月20日は開館)、7月21日[火]
開館時間:午前10時―午後5時(入館は午後4時30分まで)
入館料:一般1200円/高・大学生900円/中学生以下無料


特別展の出品作品は、中国陶磁が70点、文房紙宝が22点、それから彦信氏は固辞なさったけれど美術館のたっての要望により展示されたという西洋絵画のコレクション3点という構成。金沢の展覧会ではたっぷり121点でしたので、今回は厳選資料ということのようです。たしかに忘れがたい前漢時代「加彩馬頭部」や唐時代の「三彩女子 」はなかったけど、見た記憶がない作品も少なからずありました。別な眼で選んできたという事なのかも知れないし、金沢とはまた違った作品1点1点の演示のしかたや気合いの入った詳細なキャプションに、この分野を専門とする美術館の学芸員達が、イセコレクションを迎えるにあたっての本気度や意気というものを感じて、こちらもテンションが上がりました。

明時代・清時代を中心とした中国陶磁。これも詳しくないのですけど、景徳鎮窯の均整の取れた形状、微細な文様や濁りのない色彩…。その作品の背景などは分からなくても、美しいものはやはり美しいです。
虫六が今回、目を瞠ったのは「黄釉」の作品群。黄色って皇帝しか使えない禁色なんですよね。それを澄んだ発色を表現するために、釉薬レベル焼成レベルでいろいろ工夫しているみたいなのですよ。見比べてみていたらとても面白かったです。ムラのない釉薬づかいに「暗花」という浅い線刻で文様を描いてうっすら見えるか見えないかわからないような微かな文様が浮き出る手法が凄かった。また、黄色地にコバルトで文様を描く手法の作品群も補色づかいが大胆でカッコ良かった。
そして、やはり「暗花」の技法がクールな茄皮紫釉の作品群。すごく落ち着いた深みのある茄子紺…この色は酸化マンガンを使った紫釉にコバルトを加えて深い青みを出しているそうです。
勉強になるなー。

(最近自宅に置き場所がないので)金沢では買わなかった図録でしたが、写真・解説とも充実…と図録を買って、K先生(金属材料学の権威です)に貸してあげたら、とても喜んでうちにも1冊買ってくれとオーダーが飛びました。そして、これに匹敵するコレクションだねと「バウアー・コレクション中国陶磁名品展」(出光美術館・1994年)の図録を貸してくださいました。うわー、同じ窯の作品か…と思えるものがありました。
それにしても、似たようなコレクションの図録を改めて見比べてみると、コレクターの好みというのが感じられて面白いものですね。奥深すぎ…中国陶磁。



2015年7月17日金曜日

歌舞伎NEXT 『阿弖流為』

18代勘三郎以後の役者達がどんな歌舞伎を創造していくか…。虫六的に特に目が離せないのは、染高麗、中村屋兄弟、猿之助、であります。ずばり、言い切っちゃいますが。
で、そのうち染高麗と中村屋が組んで、劇団新感線のいのうえひでのりが演出する新作となれば、観にいかない道理はありません。歌舞伎NEXT『阿弖流為』は今年前半でいちばん注目のお芝居です。

いやはや−、しかしこの筋書1800円は買いですなー。あの舞台の記憶を反芻するにあまりある、垂涎のグラビア写真…カッコいいのだー。どこのスーパーモデルよ?と思ったら七之助丈ですよ。それぞれまさに現代の大首絵(浮世絵)って感じです。


新橋演舞場 松竹創業120周年 
歌舞伎NEXT
阿弖流為(あてるい)
平成27年7月5日(日)~27日(月)

 阿弖流為       市川 染五郎
 坂上田村麻呂利仁   中村 勘九郎
 立烏帽子/鈴鹿     中村 七之助
 阿毛斗        坂東 新 悟
 飛連通        大谷 廣太郎
 翔連通        中村 鶴 松
 佐渡馬黒縄      市村 橘太郎
 無碍随鏡       澤村 宗之助
 蛮甲         片岡 亀 蔵
 御霊御前       市村 萬次郎
 藤原稀継       坂東 彌十郎

「北の狼」こと蝦夷を統べる阿弖流為役の染五郎と大和朝廷から蝦夷征伐の命を受けた征夷大将軍・坂上田村麻呂(「都の虎」)勘九郎の対峙する場面が随所にあってとても良いんですが、それをみていて「研辰の討たれ」を思い出してしまいました(遠い目)。それ以降も彼らが共演している芝居は沢山あるのに、何故でしょうかね。

劇団を引っ張るのは染高麗。いのうえ歌舞伎への出演経験もあり、こういう役はとてもよく似合います。存分にカッコいいし、口跡も良いし、身体もよく動きますね。しかし、勘九郎が全然負けてないんですよ〜。この筋書きの場合、田村麻呂の方が役として美味しかったってこともあるかも知れませんが、かなりの演技力をつけていて、派手な立ち回りだけじゃくて、まさに演技で勝負をしている緊張感があります。
舞台は、仮花道を付け両花道にしていて、その向こう側とこっち側でど迫力の掛け合い場面が何度かありますが、2階で見ていても逆毛がたちましたので、1階の中州のお席で見ていた皆さんはさぞ興奮したことでしょう。

そして、七之助の立烏帽子。これがまたカッコいい。女形でなければ、あのシャープな身のこなしは表現できないと思う。新作に登場しがちな幽玄とか蠱惑とかそういう古来からの女形キャラクターではなく、アニメに出てくる戦士系って感じの美女で、女形の新時代がやってきたことを感じました。七之助、当たり役であります。

脇の役者さん達もはまりの良いキャスティングで、とても良かったです。
特に、萬次郎丈の御霊御前(!)上手い、上手すぎる。また、あえて特筆は新吾丈。成長著しいなーと感じる存在感でありました。亀蔵丈の、生き意地の張った蛮甲も良かった。

演出自体は予想に反して気をてらった感じはなく、むしろ外連(けれん)味などは抑え気味だったかもしれません。そのせいもあると思うけれど、歌舞伎役者だからこその鍛え上げた身体の使い方が生きていて、信じられないようなスピード感のある立ち回りをコレでもかーってくらい見せてくれました。ゾクゾクしますな。歌舞伎の文法にのっとった表現もあり、そういうところが「研辰ー」を思い出させたのかな?柝も上手に取り入れていたけれど、切れ味の良い殺陣に効果音が生音で入るのも、ちょっと小気味よい。それはコミック漫画を読んでいる時に味わうようなリズムを感じさせて、思わず役者の後ろにオノマトペが出てるんじゃないか?って思うほどでした。私たち世代にとっては、身体に入っているリズム感なんですよね。

黒御簾には、なんと生バンド。ギターとドラムに、笙・篳篥、三味線・和太鼓、パーカッションが控えて劇判を作っていました。

ひとつ残念だったのは、アラハバキ神の化身の白龍みたいな生き物と闘う回想場面の作りものが…なんだか微妙でした。馬や猪は見慣れているので良いのですが、なんだか歌舞伎の張り子動物はいつも微妙なんですよね?別に「ライオン・キング」みたいな演出を求めているわけでは無いのですが、バランスが悪すぎるだろ!って突っ込みたくなるのですよね。

とはいえ、全体的には、この舞台に立ち会えて良かった!と思える充実感で、会場のお客さんも同じ思いであったのか、この日はカーテンコール4回で、3回目で客だしの放送が流れたのに、お客さんが帰ろうとしないので、もういっかい幕が上がって、染高麗が照れてねぶたの跳人の踊りなんかをやってました。

評判になれば再演って話にはなるかもしれないけれど、何年先になるか分からないし、体力・演技力の比率を考えても、今現在の染五郎・勘九郎・七之助が揃ってのこの芝居なのだと思うと、やはり今年の公演を虫六子に見せておきたいと思い、劇場を出た後、後半のチケットをカードで買ってしまいました。

そしたらこんなに面白い芝居なのにまだ満席でない日があるらしい。もったいないナー。

2015年7月10日金曜日

梅田佳声さん、第1回右手賞おめでとうございます。

7月7日の七夕の日に、子どもの文化研究所の「紙芝居3賞」の授賞式があり、我らが梅田佳声さんが第1回の右手賞を受賞されたということで、馳せ参じました!


体調を崩され、定期の上演をお休みなさっている梅田さんですが、今日は久しぶりで実演をなさるということで、『恩讐の彼方に』の名調子を聴かせていただきました。

梅田さんの授賞をお祝いして、東京のお弟子さんたちをはじめとした紙芝居関係者のみなさん、大阪の三邑会のみなさん、飯野和好さんなどの紙芝居作家の方々、それから上演でお世話なっている資料館や博物館の関係者も駆けつけて、梅田さんを囲みました。

梅田さんが上野の下町風俗資料館で展示されていた街頭紙芝居を見て、上演のボランティアを買ってでたのはもう35年も前のことだそうです。以来、雨の日も風の日も台風の日も日照りの日も毎月かかさず紙芝居を演じてくださったと、資料館のHさんはスピーチしてました。35年…やれそうで、できることではありません。

35年前には、もう、博物館のガラスケースの向こうにしかない存在に、なりかけていた(東京や大阪にはまだ実演者がいらしたので)街頭紙芝居を、首の皮一枚で我々世代に伝えてくれた梅田さんのご功績は、とてもとても大きいものがあったのです。
そして、紙芝居がこんなにも上質な作品性を獲得することができるんだということを教えてくれた、長編紙芝居『猫三味線』。私にとっても、あの作品を制作させていただいた経験は宝物です。
芸人肌質の粋で軽やかな語り口は、まだ誰も真似できていないと思うけど、目標にしている紙芝居師は多いと思います。

図書館や児童館で紙芝居を読むのとは違って、いま、街頭紙芝居を志す人たちは、想像以上の規制の中で格闘しています。絵をどう調達するか、著作権付きの文化財となってしまった作品をどう活用させていただけるか、公園などでの実演をどう実現するか、60年も前の差別表現をどう扱うか、ボランティアが当たり前の社会通念からどう仕事にしていくか…。そんな、問題に、おそらく最初に直面して、教育系と街頭系の紙芝居をつなぐ立場になっていったのも、梅田さんでした。

紙芝居は、絵や話があっても上演されなければ作品じゃないと、右手和子さんは常々おっしゃっていたそうですが、様々な意味で、梅田さんが第1回のその賞を受賞されたことは意義あることだと思います。

そして、そのことを実現してくださり、お祝いの会にお声がけくださった、子どもの文化研究所の皆さんにも心からお礼を申し上げます。忘れられない会となりました。

梅田さん、本当におめでとうございます。
また、お会いできる日を楽しみに!

2015年7月3日金曜日

お蔵入りした本

日が長くなりましたね。遅く帰ってもまだ陽があるのが嬉しいこのごろ。
きのうも今日も綺麗な夕焼けでした。

さて、虫六子が自活生活をはじめて3ヶ月がすぎました。(…って言っても女子寮ですがね)
春先に、お友だちのO村クンが、「夫婦2人の生活は、怖くありませんか?」とご心配のメールをくださいましたが、何とかやってます。お互い忙しいからね、相手をかまっていられません。(ちなみに、O村クンは「うちは想像するだけで怖い」らしいです。笑)

とはいえ、家族が急に一人減って、なんだか勝手が違うこともいろいろあります。そのひとつは食事の用意でしょうか。
娘が上京したころ、家人Tが「これからは、揚げ物とかボリューム過多のものとか、もういらないな。野菜中心のカロリー少なめの食事にすればいいんだ…」といいだしたので、虫六はその言葉を真に受けて、↓こんな本を買って来てしまったのでした。

そしたら、なにさ。
「そこまで枯れる必要はないだろー!」とロコツに渋い顔。
え?私、生き急ぎましたか??

そんなわけで、1ページも参考にしないうちに、この本は暫く(あとン年くらいですかね??)お蔵入りすることになっちゃいました。ナカナカよさげな本でしたが…申し訳ないのう。

結局、娘の好物だった唐揚げとか餃子とか作らないだけで、これまでとそんなに変わらない食生活を続けている虫六家でしたー。

しかも、一人減っているというのに作る量の加減が分かんないんですよね
(;´д`)トホホ…

6月に読んだ本

2015年6月の読書メーター
読んだ本の数:4冊
読んだページ数:832ページ
ナイス数:26ナイス

大奥 12 (ジェッツコミックス)大奥 12 (ジェッツコミックス)感想
まるで平家物語のような盛者必衰の大河ドラマもついに幕末にさしかかっております。青沼様の死を無駄にしたくない黒木たち元大奥の蘭方医師団の赤面疱瘡の根絶劇と、絶対権力を手に入れたサイコパス治済が君臨する針の筵の幕内の動きが同時進行でドラマチックでした。急にやる気をだした男子将軍家斉もナンですが、なんといっても御台所とお志賀の大芝居が…あう。しかし、ことを成したあとの夫婦の間の亀裂が埋まらなかったのは、なんとも切なかった。次が出るまであと1年か、待ち遠しいなー。
読了日:6月28日 著者:よしながふみ

フイチン再見! 5 (ビッグコミックス)フイチン再見! 5 (ビッグコミックス)感想
いよいよ在留日本人の引き揚げが決まり、家族とともに日本へ旅立つとしこ。まさかの小泉さんとの再会と苦い別れ、欧さんとの切ない別れ、そして、戦犯として連行されてしまった父・熊生との別れ。としこと一緒に「どきん、どきん」した。しかし、そんな感傷に浸るすきまも許されないないほどに辛く厳しい移送の40日間。夢にみるハルピンの豊かな暮らし、父の白いシルエットが哀しい。…欧さんと再会できるといいけどなー。
読了日:6月20日 著者:村上もとか

世界で一番美しい駅舎世界で一番美しい駅舎感想
思わず手にとりたくなる幻想的で魅力的な表紙。中を開くと世界遺産か?と思えるような、世界各地の美しい建造物の写真ばかり。コレ全部、駅舎なんだそうであります。駅は都市の玄関口ですもんね、各国とも気合い入れて造ったり守ったりしているんですね。歴史ある駅舎も、スタイリッシュな新しい駅舎も、そこに入線してくる列車たちも、とにかく美しい。たぶん、写真が相当うまい。愛蔵本決定です。旅心もそそられるけど、行った先では駅をじっくりみなければ!心を鷲づかみされた表紙写真の駅はナポリの地下鉄でした。
読了日:6月18日 著者:

吉原という異界吉原という異界感想
『浅草弾左衛門』『車善七』の作家が悪所「吉原」に踏み込んだ。芝居や時代小説でもお馴染みの吉原であるけれど、時代の変遷によって(考えれば当然だけど)その姿は随分違っていた。江戸の町を移転していく吉原、遊郭町として確立していくまでは遊女屋と湯屋、芝居小屋との攻防があったり、遊女の格付けも客の変質(武士から町人)も絡んで変わっていき、さらに遊女と芸者が分化するのはずっと時代が下がって宝暦年間(1751~64年)だそうである。
読了日:6月15日 著者:塩見鮮一郎

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