2015年7月17日金曜日

歌舞伎NEXT 『阿弖流為』

18代勘三郎以後の役者達がどんな歌舞伎を創造していくか…。虫六的に特に目が離せないのは、染高麗、中村屋兄弟、猿之助、であります。ずばり、言い切っちゃいますが。
で、そのうち染高麗と中村屋が組んで、劇団新感線のいのうえひでのりが演出する新作となれば、観にいかない道理はありません。歌舞伎NEXT『阿弖流為』は今年前半でいちばん注目のお芝居です。

いやはや−、しかしこの筋書1800円は買いですなー。あの舞台の記憶を反芻するにあまりある、垂涎のグラビア写真…カッコいいのだー。どこのスーパーモデルよ?と思ったら七之助丈ですよ。それぞれまさに現代の大首絵(浮世絵)って感じです。


新橋演舞場 松竹創業120周年 
歌舞伎NEXT
阿弖流為(あてるい)
平成27年7月5日(日)~27日(月)

 阿弖流為       市川 染五郎
 坂上田村麻呂利仁   中村 勘九郎
 立烏帽子/鈴鹿     中村 七之助
 阿毛斗        坂東 新 悟
 飛連通        大谷 廣太郎
 翔連通        中村 鶴 松
 佐渡馬黒縄      市村 橘太郎
 無碍随鏡       澤村 宗之助
 蛮甲         片岡 亀 蔵
 御霊御前       市村 萬次郎
 藤原稀継       坂東 彌十郎

「北の狼」こと蝦夷を統べる阿弖流為役の染五郎と大和朝廷から蝦夷征伐の命を受けた征夷大将軍・坂上田村麻呂(「都の虎」)勘九郎の対峙する場面が随所にあってとても良いんですが、それをみていて「研辰の討たれ」を思い出してしまいました(遠い目)。それ以降も彼らが共演している芝居は沢山あるのに、何故でしょうかね。

劇団を引っ張るのは染高麗。いのうえ歌舞伎への出演経験もあり、こういう役はとてもよく似合います。存分にカッコいいし、口跡も良いし、身体もよく動きますね。しかし、勘九郎が全然負けてないんですよ〜。この筋書きの場合、田村麻呂の方が役として美味しかったってこともあるかも知れませんが、かなりの演技力をつけていて、派手な立ち回りだけじゃくて、まさに演技で勝負をしている緊張感があります。
舞台は、仮花道を付け両花道にしていて、その向こう側とこっち側でど迫力の掛け合い場面が何度かありますが、2階で見ていても逆毛がたちましたので、1階の中州のお席で見ていた皆さんはさぞ興奮したことでしょう。

そして、七之助の立烏帽子。これがまたカッコいい。女形でなければ、あのシャープな身のこなしは表現できないと思う。新作に登場しがちな幽玄とか蠱惑とかそういう古来からの女形キャラクターではなく、アニメに出てくる戦士系って感じの美女で、女形の新時代がやってきたことを感じました。七之助、当たり役であります。

脇の役者さん達もはまりの良いキャスティングで、とても良かったです。
特に、萬次郎丈の御霊御前(!)上手い、上手すぎる。また、あえて特筆は新吾丈。成長著しいなーと感じる存在感でありました。亀蔵丈の、生き意地の張った蛮甲も良かった。

演出自体は予想に反して気をてらった感じはなく、むしろ外連(けれん)味などは抑え気味だったかもしれません。そのせいもあると思うけれど、歌舞伎役者だからこその鍛え上げた身体の使い方が生きていて、信じられないようなスピード感のある立ち回りをコレでもかーってくらい見せてくれました。ゾクゾクしますな。歌舞伎の文法にのっとった表現もあり、そういうところが「研辰ー」を思い出させたのかな?柝も上手に取り入れていたけれど、切れ味の良い殺陣に効果音が生音で入るのも、ちょっと小気味よい。それはコミック漫画を読んでいる時に味わうようなリズムを感じさせて、思わず役者の後ろにオノマトペが出てるんじゃないか?って思うほどでした。私たち世代にとっては、身体に入っているリズム感なんですよね。

黒御簾には、なんと生バンド。ギターとドラムに、笙・篳篥、三味線・和太鼓、パーカッションが控えて劇判を作っていました。

ひとつ残念だったのは、アラハバキ神の化身の白龍みたいな生き物と闘う回想場面の作りものが…なんだか微妙でした。馬や猪は見慣れているので良いのですが、なんだか歌舞伎の張り子動物はいつも微妙なんですよね?別に「ライオン・キング」みたいな演出を求めているわけでは無いのですが、バランスが悪すぎるだろ!って突っ込みたくなるのですよね。

とはいえ、全体的には、この舞台に立ち会えて良かった!と思える充実感で、会場のお客さんも同じ思いであったのか、この日はカーテンコール4回で、3回目で客だしの放送が流れたのに、お客さんが帰ろうとしないので、もういっかい幕が上がって、染高麗が照れてねぶたの跳人の踊りなんかをやってました。

評判になれば再演って話にはなるかもしれないけれど、何年先になるか分からないし、体力・演技力の比率を考えても、今現在の染五郎・勘九郎・七之助が揃ってのこの芝居なのだと思うと、やはり今年の公演を虫六子に見せておきたいと思い、劇場を出た後、後半のチケットをカードで買ってしまいました。

そしたらこんなに面白い芝居なのにまだ満席でない日があるらしい。もったいないナー。

0 件のコメント:

コメントを投稿