2009年10月17日土曜日

20世紀メディア研の特別研究会

早稲田大学・20世紀メディア研究所主催の特別研究会「占領期・大衆文化はどう変わったか」に行ってきました。

この校舎、先日の『ブラ・タモリ』で見ましたな。

この研究会は、『占領期雑誌資料体系 大衆文化編』全5巻(岩波書店)の刊行を記念したシンポジウムでした。

終戦直後、我が国のメディアは占領軍の検閲下にあったわけですが、その検閲資料は、当時の連合国総司令部民間検閲局(CCD)に勤務していた米国メリーランド大学教授・ゴードン W. プランゲ博士が、歴史的価値に注目し、検閲終了後、米国機関で一括所蔵・保存することに努め、現在はメリーランド大学に寄贈され所蔵されています。「プランゲ文庫」と呼ばれる資料群です。
「プランゲ文庫」は、1945年から1949年にかけて日本で刊行されたすべての出版物(図書・雑誌・パンフレット・新聞)、検閲文書、ポスターなどを収集した膨大なコレクションで、早稲田大学の山本武利教授を代表とするプロジェクトチームがデータベース化をすすめ、公開しています。
http://m20thdb.jp/login

そのデータベースを活用しつつ、各ジャンルの専門家が研究成果を公表してきたそうですが、その研究グループをリードしてきた方々が改めて資料の評価や精選を行い、解題・解説を加えて、今回のシリーズの刊行になったそうです。
最初の刊行となったのが「大衆文化編」で、このあと文学編の刊行は決まっていて、うまく売れるようなら生活・世相編、思想編…と続くとのこと。
http://www.iwanami.co.jp/moreinfo/028241+/top.html

山本先生の占領期のメディア研究では、紙芝居の検閲についての貴重な論文があり関心があったので、出かけてみることにしたのでした。

内容は、
1.<問題提起> 占領期における大衆文化をどう捉えるか : 原田健一 新潟大学教授
2.大衆文化における断絶性と連続性について : 佐藤卓己 京都大学准教授
3.音楽・映画における問題 : 古川隆久 日本大学教授
4.産業としての映画における諸相 : 井上雅雄 立教大学教授
5.写真はいかに展開したか : 白山真理 日本カメラ博物館運営委員
6.ディスカッション
7.『文学編』編集委員からの発言 : 川崎賢子 早稲田大学講師/十重田裕一 早稲田大学教授/宗像和重 早稲田大学教授
  司会・石井仁志(『大衆文化編』編集委員)

参加自由の研究会とはいえ、刊行記念という性格上、かつ会場に来ている人はほとんどが関係者であろう研究会なので、刊行された書籍の内容はみなさん分かっていることが自明のようで(そのわりに会場で書籍平積みしていたんですが…)、勉強不足の虫六にはその距離を埋めるのがしんどかった部分もあり、ほぼ4時間半(途中休憩10分のみ!)ぶっとおしだったので久しぶりで勉強したなぁと感じでしたが、内容は興味深いものもありました。

最初の佐藤氏がたっぷりやって、その中で問題提起された「占領期言論空間の断絶性と連続性」というテーマが議論の中心になっていたようで、今メディア研究界の関心事はこのあたりなのか…と知りました。ただ、あとの方々が押せ押せになったのはちょっと残念。

面白かったのは井上氏のお話しで、終戦・占領期を通じて映画界を飲み込んだ混迷・パニックの状況、「青い山脈」のヒットの意味、世論調査の読み解き方、それから当時の映画界で影響力を持っていた会社としては松竹、大映の存在が大きいかったはずだけれど「プランゲ文庫」には東宝の資料以外はほとんど収録されておらず、そのことの意味するものという指摘も示唆にとんでいました。井上先生の「文化と闘争 東宝争議1946-1948」読んでみようかなと思った次第です。

今回いちばんツボだったのは、古川氏が指摘したアマチュア文化(アマチュア音楽団体の様相、アマチュア写真の広がり)をどうとらえていくかという問題提起で、「鉄道写真は?」という例を出されたのですが、これが正に私が直面している問題でビックリ。内心どきどきで聞き耳をたてたのですが、ただ「古川氏は実は鉄ファン」という事実をカミングアウトする形でどっと笑いが起きてしまい、そこで話題が切れて残念でした (||li`ω゚∞)

しかし、文学編の編者である宗像和重氏がこのあとの文学編で私的冊子や同人誌などの著作権と公表を巡ってナーバスな問題があるということを話されていて、こういう立場の方なので、国立国会図書館・国際子ども図書館の「子どもの友」投稿者捜し事件などは当然ご存じだろうとは思うけれども、いずれ、匿名・無名の表現物をどう公表すべき資料として取り扱うかという問題は避けて通れないものになっていくという確信を得た次第です。

特に、今後ブログを通じて匿名で表現することが当たり前になってくると、著作権をめぐる問題も再考を余儀なくされるだろうし、そういうものの取り扱いの指針を示す立場に近い方々には今から考えておいていただきたいです。

鉄道写真に関して言えば、その歴史と広がりを思えば、際もの趣味としての別途取り扱いのままでは文化的損失は多大だと日々実感しています。その理解のなさから、貴重な写真が撮影者の死去にともなって散逸してしまうという現状も憂慮すべきなのです。紙芝居資料の将来を考えても暗澹たるものがあるけれど、趣味の分野の範疇にあるモノは、文化財的価値を想定しにくく、本当に取り扱いが難しいです。

古川氏が宗像氏の問題提起に対して、「あまり怖がらないでやってみる(出してみる、だったかな)ことが大事で、いろいろ出てくるかもしれないけど、それは起きてから丁寧に対処するでどうですか」と述べていて、基本的に賛成!と思いました。大衆文化編の編集代表の原田氏も「ケアが大事」とおっしゃっていました。ケアすることをおっくうがって、結果として残すべき文化財を散逸させたり廃棄させたりする道を行ってしまうことの方が研究者としての責任を果たしていないと言う気がするのでした。

それにしても、紙芝居資料については1ピコグラムも話題にのぼりませんでしたな。このシリーズ買おうかな、どうしようかな…。今は金欠なので、年明けにでも考えよう。


せっかく来たので、演劇博物館に寄ってみました。いま開催中は「新派展」と「大田省吾展」。団体さんがギャラリートークを受けていました。「新派展」をゆっくり見ていたら、時間がなくなって「大田省吾展」にいけませんでした(;´▽`A`` 1Fに展示されていた花柳章太郎が「滝の白糸」の兼六園の場面で身につけたという、白地に濃納戸で首ぬきに扇の模様を染め出した衣装が、えらく粋でかっこよかったです(*´Д`*)鏑木清方のデザインとのことでした。

帰りの新幹線で、加藤和彦氏の訃報を知りました。軽井沢のホテルで自殺…!!驚きました。氏の残した音楽に感謝しつつ、合掌。

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